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「う…」


 中年の男の口から言葉にならない声が洩れる。
 それは、悲鳴にも似た、苦痛に歪められた声に他ならない。
 だが、この場に於いてそれは何一つ意味を成さない。


「小由良さんよぉ」


 中年の男の耳許で囁く様に男が呼び掛けた。
 小由良と呼ばれた中年の男には答えるだけの力は最早無かった。


「俺ぁ、テメェんとこの娘の所在が知りてぇだけ」


 そこで、言葉を一旦区切り、辺りを見渡す。


 革張りのソファーが叩き割れ、四方に転がり、机は原形をほとんど残さずに散らばっている。
 白を基調としていただろう部屋は、今ではどす黒い血でその大部分を覆い尽くし、塵の様に死体が散らかっていた。



「それだけだったのによぉ、見ろよこれ、ファミリー丸々一つ潰しちまったじゃねぇか」


 愉悦に歪んだ顔が小由良の顔と向き合う。
 怒りも悲しみも憎しみも、男に対する全ての感情は燃えるだけで男を焦がすことはなく、小由良の瞳は翳りを帯びて、閉ざされていった。

 閉じきったと同時に、小由良は床へと落ち、男はそのまま、建物を後にする。



「チッ…うああああああっ!」


 辺りを石に囲まれた丘の上で男は叫んだ。
 苛つきが身体の内から止めどなく溢れては声と鳴って空へと吐き出されていく。


「小由良心葉っ!!!!!!あんの餓鬼はぁぁあっ、どこだっ、どこに行きやがったぁああっ!!!!!!」



 男はそのまま、別の男達が彼の許に集うまで叫び続けた。


 
♯B-side♯―END―

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