F 『………』 「何もないんだ。いいや、たとえ何かあっても、風紀を乱す者は咬み殺すから」 …やっぱりか。 この美少年、基、雲雀恭弥は固より私の話を聞く気がない。 この町というか学校における自分の中のルールが優先され、それに反した者は始末される。 トンファーが構えられた。 吊り上がった眼が真っ直ぐに私を捉える。 これが敵意でなく好意から来るものならどれだけ良いか。 大好きなんだ。恭弥。 恭弥がトンファーを振り上げ、踏み込んだ。 振り上げられたトンファーが弧を描いて私目掛けて振り下ろされる。 …ジ・エンド・オブ・私。 成す術もなく、瞳を閉じた。 こういうのって、条件反射なんだろうな。 どこまで冷静なんだ、私。 痛いの嫌だな。 嫌だな。 本当、嫌だな。 ん? あれ? 痛くない? 痛いのこない。 来て欲しくはないよ。 だけど、あれ? 来ない。 いつまでもトンファーの感触が来ない。 私は恐る恐る眼を開けた。 風が吹き付け、撫でる様に髪を靡かせた。 『…あ、れ?』 見覚えのある背中が私の前にあって、その人物は恭弥の腕を掴んでトンファーの軌道を止めていた。 「ギリギリセーフだったね、琳」 その人物が少しだけ振り返って笑んだ。 『…鴻』 …今ほど君と友達(多分)で良かった思ったことはないよ。 ていうか、初めて思ったよ。 「ワオ、君、素晴らしいね」 そんな私と鴻を他所に恭弥は愉悦に口端を上げた。 …楽しそうだな。 助かった事に安堵しながら、私は恭弥をぼんやり眺めた。 [*前へ][次へ#] |