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『…どうしたんですか、これ?』


 自分でも驚く程に平坦な呆れ声が口を出た。
 なんとなく、先が読めた気がしたのだ。
 少し離れた所から鈍い音の応酬が聞こえる。だが、それは無視した。


「しっかし雲雀、言う割りには大したことないわよね!」


 無視だ。


「わお、君こそその程度でよく言うね、朝霧もだけど、直ぐにそこで転がる委員達と同じようにしてあげるよ」


 聞こえない、聞こえない。


 草壁が僅かに身を震わせた。近くでその他大勢が、今にも事切れそうなか細い声で呻いた。知らない、知らない。


『草壁さん?』


 答えが返って来ないので、急かすように語調を強め、再度問うと、草壁は僅かに此方に顔を向け、たどたどしく口を開いた。


「実はな、委員の一人が、委員長の居ない間に…クリスマスパーティーをしよう、等と言い始めてな」


 草壁の瞳が遠く、星空へと向く。
 まるで、今から死に行く負傷兵のような、弱った姿に、どれだけボコられたのだろうと疑問を抱いた。

 草壁は続ける。


「…俺は、止めたんだ。しかし、奴は…柏木は聞かなかった」


 取り敢えず、ずっと気になっていたんだが、柏木って誰だ。


「もしかしたら、俺自身、クリスマスパーティーというものに憧れていたのかもしれない…。だから、止めきれなかった、のかもしれない。結局、タイミング悪く帰って来た委員長の耳にその話が入って、この様だ」


 草壁の言葉は真摯に澄んだ夜気に響いた。
 私は、黙って踵を返し、異種格闘技戦に汗を流す二人を見た。それから、言った。


『鴻、帰ろ』

「何」


 後ろから鳴った、絶命間近の羽虫のような声を無視して二人へと近寄った。


 恭弥が切り裂くような鋭利な視線を寄越す。口が固く結ばれていた。それが直ぐに小さく開かれた。


「朝霧、今夜は返す気は無いよ。椋月も、ね」

「琳と一夜を共に…?じょ、上等じゃない雲雀!!!」

『帰ります』


 どこか苛立たしげに告げる恭弥に、私も苛立ちを隠すことなく断言した。





   

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