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「琳っ、行くよ」

『ふぁお!?』

「椋月、待ちやがれ」


 疾風迅雷、その声が聞こえるや否や、鴻は矢のごとく私の手を引き駆け出した。
 獄寺が、その私達の後ろを追う。

 聖夜にストーカーとは、赤い服のメタボの不法侵入者も吃驚の犯罪行為である。


「かああああしわだああぁああ!!!!!!!」


 再び彼方から声が鳴る。
 パーティーか、パーティーでもしているのか。
 聖夜に絶叫パーティーか。
 先生、帰って良いですか。


 …無理そうですね。


 遠くから降るように轟く草壁の声に不服な思いが込み上げる。

 と、ここで。目の前に、見慣れた建物が見えた。
 並森中学校である。

 それは光の下にある時とは打って違って、胸を押し潰すようなおどろおどろしさがあった。
 巨大な影が闇に薄ら浮かぶ様は、得も知れぬ不安を駆り立てるようで、見ていて余り良い印象は受けない。
 勝手知ったる建物が、まるで知らない場所へと変わっているというのは良い気がしないものだ。

 辺りを見回すも、膝に手を突いて肩で息をしている獄寺がいるだけだ。
 情けないな、と思う反面、全く疲労を覚えていない自分に、夢の補正の素晴らしさを感じる。


『(私、こんなに動けないしな)』


 心中で呟くも、呟いた途端に何か、噛み砕けない違和感が芽生えた気がした。


「ったく、てめーら夜に学校なんて頭おかしいだろ…」


 ゼハ、ゼハと息を荒くする獄寺を、冷たい目で見た。
 あん?と凄まれた所で、夜中に同級生女子を追い回した奇行が消えることはない。

 鴻は最早相手にさえしない。
 というよりも、先程から何かを探すかのように空を眇めていた。

 その目が、閉じられる。

 うん、と一つ頷き、直ぐに目は開かれた。

 瞬間。

 まるで走行中のトラックに掴まったかのような、急激且つ強烈な引力に身が前へ引かれた。

 無論、鴻に因るものだ。


『むあっ!?』


 腕が肩と絶交するかと思った。痛いなんてものではない。



 

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