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「獄寺さん…っ!」


 倒れ込んだ獄寺に対し最初に叫んだのは顔を蒼白にした看護師だった。
 慌てながらパタパタという音が聞こえてきそうな動作で看護師は獄寺へと近付いていく。


 山本じゃないのか、と思った。何が?と聞かれればゴニョゴニョしてしまうが、脇役よりも脇役な看護師が出張るのに疑問を禁じ得ない。


 しかし、そこはやはりである。

 近付いていた看護師が介抱するより早く、山本が気を失った獄寺の腕を自分の肩に回して、二人三脚のような格好で獄寺を支えた。
 当然、獄寺は一言も発しない。


 この時私は内心、重荷を背負った気分だった。
 何せ喧嘩になったとはいえ、獄寺を気絶させたのは鴻だ。
 弱り目に祟り目どころの話ではなく、弱り目に叩きつけたのだ。
 これにはさしもの山本も憤るのではないか。私は顔には出しはしないものの、ハラハラしていた。


 だが、その不安は一言で吹き飛んだ。


「貧血なんて、無理するからなのな」

『……………え』


 天然にも程があるだろう。
 鴻に殴られ事実上止めを刺され倒れたことを貧血で済ませるだなんて。

 動体視力が並々ならぬ高さで、銃弾さえ見切れる目を持つ彼が鴻が殴る一部始終を見逃したとは思えない。
 なのに、貧血、だと。

 態とだろうか。
 それとも、本当に見えなかったのだろうか。

 喉をひくつかせながら鴻を一瞥する。


「あとは頼んだわ!山本!」

「ん?ああ、悪かったな椋月」

「大したことはないわ」

「は、早く医者の所に行かないと」

「そうッスね」


 すると、悪びれもせずに鴻は山本へ胸を張る。両手を腰につけ、威張るようにだ。何様だと言いたい。

 対する山本の自然さが寧ろ不自然なのだが、あの調子では本当に獄寺が貧血で倒れたと思っているのかもしれない。

 看護師は、取り敢えず慌て過ぎだ。



「んじゃ、オレは獄寺を医者に見せに行くから。じゃあな椋月、朝霧」

「じゃあね」

『あ、うん…』



 そう言い残し、山本は看護師と共に獄寺を連れて行った。
 別れた私は一応綱吉の見舞いをしようと思い、不満そうな鴻を連れて綱吉の病室へ足を運んだ。


 けれど、そこには誰も居らず、二人揃って首を傾げるも、居ないものはどうしようもないと病院を後にした。


 背後から花火のような爆発音が聞こえたが、


「ふう……山本にも見えないなんてウチ天才!」


 等と言い始めた鴻を咎めるので精一杯だった私にその音に注意を向けるだけの余裕はなかった。



 それにしても、病院に行っただけで随分と知り合いにあったもんだ。
 少しだけ、疲労感を覚えた。



♯お見舞い♯―END―



 

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あきゅろす。
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