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お見舞い。



* * *



 世界は争いで満ちているというのに、愛で溢れているという。

 愛とは幻想だ。

 誰かがそう呟いた。

 穢らわしい憎しみと欲望に塗れた人間を美化するためだけの綺麗な幻想でしかない、と。

 私はそれを聞きながら、誰かをぼんやりと見つめる。

 お前はどう思う。

 誰かは私へ言う。

 人間の言う愛とは本当に在ると思う?

 そう、誰かは私へ問う。

 分からない。

 私はそれだけ言って、手に持っていた物へと視線を戻した。

 分からない。けれど、愛が真実在ろうと無かろうと、敵は倒す。それだけ。

 私は視線を前へと変え、その先へと駆け出した。

 それもそうだ、お前は、そうだ。

 誰かは私の背中へそう呟いた。

 それだけだった。


* * *




 



「冬だね、人恋しい季節だね」

『否、別に』


 隣を歩く鴻が焦げ茶色のダウンジャケットのポケットに両手を入れて声を洩らした。
 私は短く否定する。

 冬だから、クリスマスに年末年始とイベントが近いから、或いはそういうイベントが多いから、等という理由で人恋しいとは思わない。
 その程度の理由で他人を求めようとは思えない。

 第一、結局のところ、その程度の理由で繋いだ絆等その時期さえ終われば用済みになり、呆気なく途切れてしまうものだ。

 易過ぎて、安過ぎる。
 いっそ、下らない。
 疲れるだけの面倒事を態々作り出すなんて愚の骨頂である。


「連れないなー」


 口を尖らせ、鴻は言う。


『もう連れてるし』


 現在進行形で行動を共にしている人間にそんなことを言われてもな、と嘆息せずにいられない。


「え?何?それはつまり、琳とウチは相思相愛ってこと?」

『相思相愛、って言葉を辞書で引いてみろ』

「女女が、互いに恋しく思って、愛し合ってること」

『知ってるし…。……って、待て。同性愛を語るなんてどこの辞書だそれ』

「世界百合用語辞典」

『色々と間違ってる…。何処に売っているんだそれ』

「見つけるの苦労したんだから」


 鴻は胸を張る。
 あらゆる点において不名誉なことを言っているのだが、彼女は気付いているのだろうか。というか、そんな辞典本当に何処に売っているんだ。寧ろそんな辞典誰が作ったんだ。悪巫山戯にもほどがある。


「お、琳と鴻じゃねーか」

「『ん?』」


 と、ここで背後から声を掛けられた。
 私達は怪訝に思いながら振り返る。


 そこで無数の黒に雑じり煌びやかな金が揺れていた。
 全体的に白い建物の中にあって、その正反対の色を纏った集団は雰囲気もさることながら、あらゆる意味で浮いていた。



 

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