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02

「桐原さん、すごいんだね」

拍手がやんだあとの第一声がそれだった。どうして、メガネ先生がここに居るのか考える。

「桐原さん?」
『なんですか』
「え?聞こえない」

私は黙って艶子さんの横に置いたカバンから紙とペンを取り出す。

【なんでここに先生が?】
「あれ、そっか。声、出ないもんなあ。ははは。俺此処に住んでんの。椿から聞いてない?」
【イチノミヤハジメ?】
「そう!あたりー」

最悪。そう思ったけど声には出さない。というか、出ないだけだけど。

「というか、本当にすごいね、ピアノ。高橋先生とかが聞いたら絶対喜ぶよ」
【高橋先生?】
「そう。音楽のね、先生なのよ。絶対喜ぶ。そして君をコンクールに出すね」

うんうん、と一人頷き私を見る一宮先生に私は苦笑した。

【絶対言わないでください】
「なんで?本当に喜ぶよ」
【そういうの嫌なんです】
「そういうのって、コンクールのこと?」
【コンクールも、先生と馴れ合うのも】
「馴れ合うのも、か…。うんうん、椿が言ってた通りの子だ」
【椿さんが?】

私が失礼な事言ったにも関わらず一宮先生は笑っていた。

「雪那は人と親しくなることを怖がっている…ってね」

椿さんの真似らしき事をすると満足そうに笑う。

【怖がってません】
「そう?まあ、いいけど。あ、そうだ。ご飯出来たから呼びに来たんだった」

呼んだからねー、と部屋を出た一宮先生を睨みピアノを閉じる。

『艶子さん、またね』

電気を消してリビングに向かった。

「雪那」
『居候が一宮先生なんて聞いてない』
「…ゆっくり言ってくれ」

こんなとき、雪斗が居れば、と思ってしまうのは私の悪いクセだった。
私は小さくため息を吐きもう一度ゆっくり口を動かす。

「いそうろうが、いちのみやせんせいなんて、い…きいてない…?」

私の口を見ながら声に出し確認する椿さんはなんだか間抜けだった。

『そう』
「でもさっき一宮が居候してるっていったろ?」
『…名前知らなかったんだもん』

そう言えば椿さんは苦笑いし、あぁ…とため息を洩らした。長めの前髪をかきあげ目をパチパチさせる椿さんはまたまた間抜けだ。まばたきしなければかっこよかったのに、と思ってしまう。

「それは、うん。ごめん。じゃあ改めて紹介するな。理科担当の一宮一 イチノミヤハジメ。…学校じゃ敬語使ってるけどうちじゃ絶対使わないから。というか、性格が180°かわる」
「こら、余計な事言わない。また見せてないんだから。桐原さん、よろしくね」
『…よろしくお願いします』
「ん?」
『…』

口だけ動かしても一宮先生には通じない。だから頭を深く下げてよろしくお願いしますと示した。一宮先生はわかってくれたようで私の頭を優しく数回撫でた。

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