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タダイマ

「ただいまー」

車で20分のところに椿さんの住むマンションはあった。

「ワケ有りで一宮が一緒に住んでるんだけど…大丈夫?」

イチノミヤと呼ばれた人が誰なのかわからないまま頷く。

「あ、その部屋が雪那の部屋だから。俺の部屋はこっちで、一宮はリビングのソファー使ってる」

簡単に部屋の説明をされ、荷物を置くため雪那の部屋と言われた部屋に入る。実家から持ってきた白い机とイス、ベッド、コンポ2台、32型の薄型テレビ、黒いカーテン、茶色いソファー、薄茶色のタンス。それから、ピアノとギターが置いてあった。

『狭い』

最初に抱いた感想はそれだった。でも、ありがたい。

「ピアノとギターは夜遅くじゃなきゃヘッドフォン無しで良いって管理人さん言ってた」
『ありがとう』

口をパクパクさせゆっくり言うと椿さんは笑った。

「どういたしまして。もうすぐ一宮帰ってくるから飯作るな。雪那は先に風呂入れ」

頷くと椿さんは部屋のドアを閉めた。

現在6時半。まだヘッドフォンなしで平気かな、と思いピアノに触る。

『昨日ぶりだね、艶子(ツヤコ)さん』

黒いピアノ。椅子に座り電源を入れた。ドからドまでを右手で鳴らすと左手も鍵盤に載せる。頭の中で数を数え鍵盤を叩いた。曲目はドビュッシーの月の光。元はゆっくりな曲だけどアレンジを加え速く、激しく弾く。最初は月の光だったけど途中から自分で作ってしまいもう元の曲が何かわからなくなった。ピアノの音が止み、拍手が聞こえる。ドアが開かれた入り口に今朝職員室で会ったたメガネ先生が立っていた。

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