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待ち時間30分

HRが終わり生徒もまばらになった頃。

「あと30分で帰れるから待ってろ」

その言葉と共に椿先生は教室を出た。

―― 俺のバンドのヴォーカルになれ!

先ほど彼が言った言葉が頭をぐるぐる回る。キラキラ輝く目、私より小さな体を小刻みに震わせ興奮気味にもう一度。

―― ユキナ、ヴォーカルになれ!

なってくれ、じゃない辺りが彼らしいと思った。
私は首を横に振ると苦笑いを彼に返した。彼は5時間目が終わるまでずっと私を説得し、頷かせようと頑張っていたが、私が教室に戻ろうとするとヴォーカルにならなくてもいい、と声を上げた。

―― ヴォーカルにならなくてもいいから…だから…だからまた明日もここに、この時間に来てくれ!

私はその言葉には答えずに音楽室を出た。明日になってから決めよう。きっと、いま考えても明日どうなるかなんてわからないから。でも、行ってしまうんだろうな、と漠然とだけど思ってしまった。

「お待たせ」

教室に入ってきた椿先生を見て急いで帰る準備をする。時計を見れば椿先生の言葉通り30分経っていた。そんなに待った感じしなかったのに、そう思った。

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