05
「はい、ユキナはこれ。ダチのギターなんだけど、多分使って平気。因みに名前は若葉さん。これは俺のベース。美空ちゃんって言うんだ。超美人でしょ」
美空と呼ばれたベースはピカピカに磨いてあり、とても大事にされている事がわかった。渡されたギターにはイニシャルが刻み込まれていた。
『エム・エイチ』
「ん?どした」
イニシャルを指さすと
「あぁ、持ち主の名前樋口紅葉って言うんだ。ユキナと同じクラスだけど、知らない?」
知らない、という意味を込めて首をよこに振る。そっか、と興味ないように呟くと有名なロックバンドの曲名を言った。
「しってる?ONEってグループの曲なんだけど」
頷くと彼も頷き、速さはこれくらいで。と床をトントンと踏み鳴らした。
「じゃあ行くよ。ワン、トゥー、ワントゥースリー…」
不思議なくらい彼のベースとわたしの弾くギターの音が綺麗に重なる。私の指の速さに彼は目を見開き、口をぽかんと開けたが、どうでもよかった。それよりもこの綺麗な音を止めたくなくて、必死にギターを弾いた。口を大きく開け、息を吸い、思い切り叫ぶ。
「サディスティックな君は笑う
痛い痛いと叫ぶ僕をみて
サディスティックな君は笑う
息を止めた僕の首を絞めながら…」
声が出た事に、不思議と驚かなかった。
二つの音が一緒に止むと、彼は私の肩を掴み、私を抱きしめた。いや、私に抱きついた。
「ユキナ、俺のバンドのヴォーカルになれ!」
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