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03

「キリハラユキナ…?」

ユキナと名前を間違えられたが訂正はしなかった。声、でないし。

「先輩だったんだー。敬語使い忘れちった。まあいっか。ユキナちんめっちゃ歌ってるのに声でてなかったから、半信半疑で聞いてみた。でも俺には聞こえたよ?。ちゃんと、ここに」

胸の辺りをドンと叩く。恥ずかしいやつだ。でもなんだか胸が暖かくなった。強引だけど、悪意なんて全くなくて、純粋そのものだった。

「っはは…っ」
「あ、声出た」

彼がおもしろくて、一緒に居ると楽しくて漏れた笑いに音が乗る。

「え、なんで」

小さい、小さい声。少しでも大きい音が周りにあったらかき消されてしまうような、小さい声。それでも出た事に驚いた。

「ユキナ声でるんじゃーん」
『違うっ』
「あれ?また消えた」

彼から紙とペンを取り言葉を殴り書く。

【私声でてたよね】
「うん、でてたよ」
【初めて出た
初めてちゃんと声が出たの】
「んー…ユキナは本当に声でないの?」
【うん】

あまりにも嬉しすぎて興奮した。でもすぐに冷静さを取り戻す。全くの他人にペラペラ話して馬鹿みたい。

【ごめん。他人の君にこんなこと。私教室戻る】

それだけ書くと立ち上がる。声が出たのはまぐれなんだ。だって今はもうでない。偶々運が良かっただけ。

「待ってよ。まだ俺ユキナと話したい」
『離して』
「ん?」

声がでないと彼に何を言っても通じない事が悲しかった。腕を振り離してと訴える。

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