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02

「すごいねー…君すごいよ」

拍手をしながらグランドピアノに向かってくる男は目をキラキラ輝かせていた。
あぁ、私にもこんな時があったな。ふと思った。

「ピアノが、ピアノじゃないもののように感じた。ピアノの音に乗って、君の声が聞こえた。ねえ、すごいよ」

私は言葉を返さないのに彼はそんな事も気にせず話続けた。

「すごい、格好良かった。ねえ、名前、教えてー?俺はー、一ノ瀬陸。2年3組。君はー?」

語尾を伸ばしゆっくりとした特徴的な話し方だった。

「…」
「黙ってたらわかんないデショー。ねーえ、教えてー?」

可愛らしく首を傾げた彼。
私は溜め息を吐き立ち上がり音楽室を出る。どうして音楽室に彼が入ってきたのか、気になったけど聞いたらきっと彼はつきまとい続けるだろうと考え聞かなかった。

「待ったー」

ぐいっと腕を引かれ再び音楽室の中に。何故か鍵をかけた彼は床に座り込んだ。自分の前をポンポン叩きここに座れと言う。私は何故か彼の言うとおり床に座ってしまった。

「君、声でないんでしょー?だからほーら、紙に名前とクラス書いて」

ニッカリ笑う彼にあっけにとられる。彼は無理やり書かせようとしているのに悪い気はしなかった。

【3年2組桐原雪那 どうして声がでないってわかったの】

さらさらそれだけ書くと彼の答えを待つ。

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