秘密
カチャカチャ食器のぶつかり合う音が教室に響く。
「今日は、楽しかったか?」
何故か私の隣に座った椿先生が問いかける。私は笑顔で頷いた。
「…そうか、よかった。辛かったら言えよ?出来る限りのことはしてやるから」
何かあったら言えよ、じゃないあたりが椿先生らしかった。【辛くて、辛くて辛くて頑張れなくなったら頼れ。それまでは自力で頑張るんだ。】そう言いたいのだろう。椿先生は、こういう場面で私をあまり甘やかしたりしなかった。
「雪那、」
「桐原さん!!あのね、聞きたいことがあるの」
「?」
椿先生が何か話し始めたとき、近くに座っていた女の子が話しかけてきた。
「桐原さんって…バンド、組んでたりしない?」
椿先生が、固まった。私も固まる。女の子は気づいていないようで、そのまま話を続けた。
「なんか東京の中学でめちゃくちゃ人気の中学生バンドがあったんだけど、バンド辞めちゃたみたいなんだよね。文化祭で一回だけ見たことあるんだけど、似てるの。桐原さんがヴォーカルの人に。…名前も一緒。刹那(セツナ)。まあ、その時紹介してた字と違うんだけどね」
そこまで一気に話すとこちらの様子を伺うように静かになった。息が苦しくなって息を大きく吸おうとするんだけどうまく吸えなくて苦しい。
「桐原さん…?」
「…夏生、悪いんだけど俺のカバン、机の下にあるやつから紙袋とってくれないか」
「え、うん、わかった!」
私が呼吸をするたびにガサガサ袋がしぼむ。
「雪那、ゆっくり深呼吸しろ」
そんなことわかってる。でも出来ないんだから仕方ないじゃない、そう冷静に考える頭と、袋を口にあててくれてる椿さんの首元を必死に掴む私の手は矛盾していた。
ハッハッハッと荒い呼吸はしばらくすると落ち着いてくる。
「雪那…泣くなよ」
うるさい、黙れ。椿さんの首を絞めながら叫んだ。
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