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手枷の次に外されたのは目隠しだった。

ひさしぶりの光は眩しすぎて、しばらく目を開けたり閉じたりを繰り返す。

やっと目が光に慣れて男を映す。

うねるような髪の毛は、後ろでまとめられ、眉は下がり口元にはほくろがある。

細身の男だった。
背は、そう変わらない。

じいっと男を見つめる。どこかで、会ったことがあるような気がした。

けれどそれよりも、荒北にとって衝撃だったのは、男が思っていたよりも若いとか、そう言うことではなかった。

「色が、」

行為のとき以外使われなかった喉から絞り出した声は、笑える程震えていた。

だって、わからないのだ。

目に写るものに、一つも、色が見えない。
モノクロ写真を見ているみたいに。

「色が、見えねえ…」
「靖友、こっち」

機械越しではない声が鼓膜を叩く。ハッとして男を見れば、愛おしげな目で荒北を見ていた。

初めて聞く、男の声。

はじめて、だろうか。何故だか記憶の琴線に触れたような気がしたけれど、男が腕をのばして来たから、その感覚はすぐに霧散した。

ぎゅう、と男の体温が体を包む。

行為中にのしかかられたり、上に乗せられたりしたけれど、正面から抱き合うのは初めてだった。

不思議と恐怖はなかった。
ただ、心地よかった。

ぽんぽんと子供みたいに背を叩かれて、とろりと眠気が襲ってくる。

この部屋に来てから、荒北の生活は本能のまま過ぎていく。

眠くなったら寝て、お腹がすいたら食べ、排泄をし、性欲を発散する。我慢を強いられるのは行為の間だけ。

荒北は本能に抗うことをすでに放棄していた。


すんすん、と男の首筋に顔を埋めて鼻を鳴らせば、くすぐってえよ、と男が身じろいだけれど、止めろとは言われなかったから、思う存分堪能し、頭をすりつけた。

「犬みてえだナ」

面白そうに男が笑う。こんな風に笑うんだな、とへたくそな笑みを見て思う。

あれほど感じていた恐怖が、さっぱり消えていた。

むしろ、執着すら感じ始めていた。

(これは、俺の)

この部屋には荒北と男しかいない。

荒北を好き勝手して、作り替えたのはこの男だ。抵抗する意思を削ぎ、男に抱かれて悦ぶ体にした。

あれほど逃げたいと思っていた気持ちは、消えてしまった。

今更飽きたと放り出されたら、荒北はどうなってしまうのだろう。

きっと、男を殺して、自分も死んでしまうのだろうと思った。

眠気で力の入らない体を、男がベッドに横たえる。

「…スんの?」
「寝とけ、また夜にくるから」
「ん」

肌触りのいい布団をかけられ、ぽんぽんと腹の辺りを叩かれる。それは行為の時になでる仕草に似ていたけれど、不思議といやらしさはなかった。

がちゃりとドアにカギがかけられ、部屋がしんと静まり返る。

寝てばかりだなと思ったけれど、やはり眠気には勝てなかった。




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