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小さく空気を震わす音がした。
音源は探すまでもなく、部屋に来て早々、俺の膝の上を陣取り本を読み始めた小さな身体。
「…何笑ってんだよロード」
「べっつにぃ?」
そう言いつつも、くすくすと何が可笑しいのか、俺の腕の中で小さな小さな妹は笑い続ける。
すっぽりと収まる矮躯が、小刻みに揺れる。
髪の毛が首に当たってくすぐったい。
くすぐってぇ、文句を言えば、ケチケチすんなよ、減るもんじゃねぇだろ、と訳のわからない返事を返された。
ほどなくして、笑いが止まった。
むずむずする首を掻けば、「ティッキーウケんだもん」とうっすらと涙が溜まった目がこちらを向いた。
…どんだけ笑ってんだよお前。
つか、俺何かしたか?やさしくも可愛い妹のために膝を貸してやったくらいで、後はぼーっと煙草をふかしてただけ。
おかげさまで両足共に、痺れすぎて危険な状態だ。立てねぇ。
「えい」
「うぎゃ」
つつくな馬鹿、痺れてんだっつの!
悶絶する俺を余所に、今度は爆笑しやがった。
動くな降りろ、いつまで膝乗ってんだよ。
「、っ、ティッキーと、いるとさぁ」
なんだよ。
言葉尻震えてんぞ。いつまで笑ってんだ。
「マジウける」
……。
涙出そう。
こんな扱いってない。
はは、と乾いた笑いを漏らす俺を余所に、膝上を陣取っていた塊が床にすとんと降りた。
口元に笑みを浮かべたまま、片手に本を携えてドアに向かっていた足が、不意に止まる。
何か忘れ物か?と首を捻る俺に、それはそれは可愛らしい笑顔を向けて、言い放った。
「ティッキーと居ると、愛されてるなぁって思うよ」
絶句、まさしく絶句。
「家族だし、当然だろ」
何とか紡いだ言葉に、彼女は満足そうに笑みを深めて、今度こそドアに手をかけて出て行った。
痺れてんなら言えよ、マゾ。
去り際にとんでもない台詞を残して。
( 気付いてたんならお前こそ降りろよ、このサド娘 )
愛してるから、触れたいと思う。故に、拒めない。
あーあ、なんていうか、
「丸見えの透明人間と同レベルじゃねーか」
(つまるところまるわかり)
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