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ハッハッと頭の中に響く呼吸で、目を覚ました。

全身が鉛のように重い。熱く火照っているのに、ゾクゾクと寒気がする。

(熱、風邪引いたのか)

あらぬところがじくじくと痛み、あの悪夢のような出来事が現実だったのだと思い知る。

体中汗でぐっしょりと濡れているものの、べたつくような不快感はないから、後処理は男がしたのだろう。

腹の中に精を詰め込まれた感触を思い出して、再び吐き気がこみ上げてくる。

(なんで、あんなこと)

どこの誰とも知れない男に、荒北は女のように扱われ、散々好き勝手された。

あれだけ泣いたのに、また涙が出て止まらない。

寝ている間に男がかえたのだろう渇いた目隠しが、また湿って重くなっても、涙が止まることはなかった。





男に抱え起こされ、気を失っていたらしいと気付く。

熱で朦朧とする頭で抵抗することを考えたけれど、思った以上に熱が上がった体は、指一本まともに動かせなかった。

上半身をクッションで起こされて、頭の後ろに手を回されて荒北は思わずびくつく。

同じ男にここまで恐怖を覚えてしまう自分に嫌悪が湧けど、勝手に震える体はどうしようもなかった。

けれど、男は震える荒北などおかまいなしに口枷を外し口元に何かを寄せてくる。

「メシ」

機械を通した男の声に、やっと食べ物の匂いに気付く。

おかゆだろうか、口を開かない荒北にじれた男に口を割り開かされ押し込まれたものを咀嚼しながら思う。

口の中のものを大人しく飲み込めば、再びスプーンが寄せられた。

(ここがどこかもわかんねえ内に、体力奪われたら、逃げらんねェし)

熱はあれど、眠ったことで多少回復したのか、どうにかここから逃げ出す方法を探そうと考えた。

熱を下げるためには体力をつけなければならない。

こんな下種野郎の手から食事をとらなければならないことが悔しかったけれど、我慢した。

(大人しく、機会をうかがえばイイ。きっと隙はあるはず)

帰る。きっと帰るんだ。

あの何でもない日常に、帰るのだ、と荒北はそれだけを考えて、男の手のひらから意識を外した。

そうでもしなければ、自分が自分でなくなってしまいそうで、恐ろしかった。




熱が下がるまで、男は荒北に手を出してこなかった。

食事を手ずからあたえ、体をくまなくタオルで拭き、排泄の世話をする。

排泄の世話をされた時は、また訳の分からないものをぶち込まれるんじゃないかと唸って暴れたけれど、ベッドで全部垂れ流したいかと言われてしまえば、大人しくなるしかなかった。

排泄を管理されるか、無様に垂れ流すか。どちらも心底ごめんだったが、ただでさえ甘い香りのする部屋に、自分の排泄物の臭いまでさせたくなかった。


何も見えない視界では、何日が過ぎたのかわからなかったけれど、荒北に取っては何週間もたったんじゃないかと感じるくらいの時間が過ぎ、やっと熱が下がった。

相変わらず甘い香りのせいで頭はすっきりしなかったけれど、体のだるさはすっかりと回復した。

「熱下がったナ、35度8分」

食事の後の検温でそう告げられるころには、荒北は男の手に慣れ始めていたし、急に触られても震えることはなくなっていた。


だから油断していたのかもしれない。

甲斐甲斐しく己の世話をする男は、もう手を出してこないんじゃないかと。


そんな考えは、その少しあとに甘かったのだと知る。




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あきゅろす。
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