3*
自身でも触ったことのない尻穴に触れられ、荒北は暴れた。
それだけは、絶対に嫌だった。
男としての矜持を踏みにじられるのだけは、耐えられなかった。
拘束された手足を振り回し、なんとか逃れられないかと暴れる。
男の手のひらが下肢から離れ、ほっと息をついたのも束の間、パンッと破裂音とともに頭が揺れた。
カッと頭が熱くなり、殴られたと理解すると同時に、再び恐怖心がわき上がってガタガタと全身が震えた。
男は腹を、太ももを、腕に手をあげ、最後に抵抗するなら脚を折ると脅した。
「野球みたいに、自転車、二度とできなくなっていいなら、暴れろよ」
抵抗を諦めるには、十分すぎる程の脅しだった。
男はどこまで荒北の過去を知っているのだろう。
なにがきっかけで男に目をつけられてしまったのだろう。
どこかの大会であったことがある奴なのか、それとも高校に入る以前の奴なのか、それとも…。
色々な大会で、荒北は成績を残してきたのだ。それを見に来ていた奴だったら、荒北が知るはずもない。
わからない。わからないからこわい。
(だれか、)
誰でもいい、助けてほしい。
(福ちゃん、新開、東堂、)
同級の顔が浮かんで消える。
(たすけ、)
「ンン゛ー…ッ!」
ぐるぐると思考を飛ばしていた荒北の意識を戻したのは、唐突な痛みだった。
あり得ないところの痛みに目を見開く。
ぬるついた何かが、尻穴に突き刺さっていた。
「ッ…、ゥグッ」
「考え事とか、余裕だナ。わかる?今、指が入ってんの」
痛みに呼吸が浅くなる。一気に現実に戻されて、荒北は首を振って泣きじゃくった。
呻く荒北のことなどおかまいなしに、指はぐちぐちと中を行き来する。
内臓に直に触れられている感覚が気持ち悪くて、血の気が引き全身が強張る。
陰茎はすっかり縮こまって、荒北がこの行為に苦痛しか感じていないことを示していた。
力なく喘ぐ荒北にそれでも男は興奮するのか、機械越しの息は荒かった。
痛みと吐き気に、もう何も考えられない。
ふうふうと鼻で息をしても、上手く空気が取り込めずに意識が朦朧とする。
このまま気を失ってしまえば、楽になれるんじゃないか、そんな考えが浮かんで、荒北が衝動に身を任せようとした時だった。
どろりと、何かが体内に流れ込んでくる感覚に目を見開く。
身を捩って逃れようにも尻穴の違和感でろくに動けない。どんどん何かが中に注がれるのを、荒北は目を見開いたまま耐えるしかなかった。
「こんなもんか」
ちゅぼ、といやな音を立てて何かが抜け落ちる。
尻の穴も、その先の腸も、もしかしたら胃袋にまで入り込んでいるのではないかと思ってしまうくらいに、何かわからないものを注がれた。
グルグルと腹が鳴る。苦しい、痛い。全部出してしまいたい。
指先すら動かせずに苦痛に耐える荒北の体が、急に宙に浮いた。驚きに思わず腹に力が入り、酷い痛みに呻きがもれる。
抱きかかえられて連れて行かれたのは、おそらく風呂場だった。
冷えた床におろされて、四つん這いにされる。あんまりな格好に荒北はぎりりと歯を食いしばった。痛みと屈辱で目の前が赤く染まって息ができない。
男の手が、ふくれた下腹を撫でさすった。その感触すら辛くて、荒北は力なく首を振った。
(出る、出ちまう)
もしも男の手が、腹を押したら。
その想像にぞっとした。腹の中のものを全部ぶちまける様を、誰かもわからない男に見られるなんて、考えたくもなかった。
あまりの苦痛に、脂汗がにじむ。背筋が冷えて、酷く寒い。
「スッゲェ精神力だなァ。でもま、そろそろ出すか」
飛びそうになっていた意識が、男の言葉にハッと戻る。腹に回されていた腕に、ぐっと力が込められて。
(ァ、)
一瞬の出来事だった。止める間も無かった。
気力で締めていた括約筋がひくりと緩んで。
「ヒゥ、―――――ッ!!!」
聞くに絶えない酷い音とともに、荒北の矜持は粉々に打ち砕かれた。
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