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2*



ふわりと意識が浮上する感覚がして、荒北は目を覚ました。

どうやら日が暮れたらしい。瞬きしても視界は暗いままだ。

せめて明りが欲しいと首をひねるが、暗すぎて何も見えない。真夜中だろうか、と考えてふと思い至った考えに、ふるりと背筋が冷えた。

(や、待てヨ、まさかこれ)

人よりも長いまつげが、何かに引っかかっている感覚。

感覚の戻り始めた手足を動かそうと身を捩って、先ほど目を覚ました時にはなかった感覚に、今度こそゾッと血の気が引いた。

(嘘だろ!)

手も足も拘束されて、目隠しされて、あげく、声を出せないように口枷まではめられている。素肌に感じる肌寒さに、服も脱がされてしまっているようだ。


何かわからないか、と鼻を鳴らすも、辺りに充満した甘い香りに邪魔されて、何もわからない。

むしろ深く息をするたびに、思考にもやがかかっていって、恐怖心に息が荒くなっていく。

鼻でしか息が出来ないせいで苦しい。じわりとにじんだ涙は、目隠しに吸い取られていった。


身動きも抵抗も出来ない状況で、拘束した犯人の目的もわからないまま。

もし暴力を振るわれたら。
もしこのまま放置されたら。
もしこのまま、ころされたら。

周りの状況がわからないせいで次々と浮かんでくる悪い想像に、荒北はもう震えを隠すことが出来なかった。

(こわい)

いっそこのまま気を失って、一時でも現実から逃避したいと、荒北の恐怖がピークに達した瞬間を狙ったように、ギシリ、顔の脇の辺りがきしむ音がした。


誰、誰だ、誰かいるのか。

もう隠しきれない嗚咽が漏れて、息がうまく出来ない。それでも“何か”の正体を知りたくて首をひねる。

頭の脇にじんわりと熱を感じられるから、“何か”は犯人なのかもしれない。

荒北が恐怖でうまく働かない頭を巡らせていると、“何か”が小さく言葉を発した。

「ナァ、怖い?」

それはまるで、一度機械を通して、いろんな音を混ぜ込んだかのような、声だった。

荒北の記憶にある誰の声でもないそれは、荒北の恐怖心を更に煽った。

「こんなに震えて、鼻水までたらして、みっともねえツラして」

“何か”は、震える荒北を面白がっているらしい。

機械音で感情はわかりにくくも、楽しんでいるということはわかった。


いつもの荒北であれば、ふざけるなと怒鳴り散らしただろう。手も脚も振り回して、暴れただろう。

でも、今の荒北に取って、機械を通した無機質な声は、恐怖を煽るものでしかなく、あ、と思った時には、もうだめだった。

「マジかよ、もらしやがった!」

“何か”の笑い声に荒北の自尊心がずたずたに裂かれていく。

ぼろぼろと涙があふれ、嗚咽が止まらない。

どうにか“何か”から逃れたいのに、拘束された体は、身動き一つとれない。

湿った目元も、濡れた下半身も、不快で仕方なくて、荒北は泣いた。

小さな子供のように泣きじゃくった。

「かわいーナァ」

“何か”が荒北の頬をなでる。大きな手のひらだった。指は細いが、胼胝の出来たゴツゴツした手は、男のようだ。

手のひらは口枷のはめられた唇をなで、耳たぶの裏をこすり、首、脇、腹とどんどん下がっていった。

何をされるかわからず、男の動きに神経を尖らせる。いつの間にか涙は止まっていた。

「…ンッ!?」

へその辺りをなでていた手のひらが、濡れた下半身に触れ、荒北は思わず唸った。

戸惑う荒北のことなどおかまいなしに、手のひらは荒北の陰茎を揉み立てる。

(ヤダ、嘘だ)

「ナァ気もちーの?顔も見えねェ男にチンコ揉まれて。ヘンタイ」

からかうように発された男の言葉を否定したくとも、荒北の陰茎はゆるりと立ち上がっていた。恐怖とわけのわからない状況に止まったはずの涙があふれてくる。

男は命の危険にさらされると、子孫を残すために性的興奮が高まると、どこかで聞いたことがあった。

確かに今荒北は何をされるかわからない恐怖に震えている。でも、こんな誰かもわからない男の手で高められるなんて悔しくてたまらなかった。

「あんまり使ってねーの?寮住まいだっけ?部活打ち込んでたら、彼女作る暇ねえか。まさか童貞?」

勝手なことを言うなと言いたい。でもそれよりも、男が荒北のことを知っているのが怖かった。

襲い来る快感とは違う震えに気付いたのか、男が笑う。

「イッちまえヨ、……荒北靖友クン」
「…ッ?!…ンッ、―――ッ…!」

名前を呼ばれ一際強く扱かれて、ついに射精してしまった。


男は、荒北を知っていた。知っていて、拘束して、好き勝手している。

嫌で怖くて堪らなかった。ぐしょぐしょに濡れた目元が気持ち悪い。

男の手のひらはまだ性器を撫でさすっている。

もうやめてくれ、俺が何したって言うんだ。

「荒北、気持ちよかった?」

気安く呼ぶな、と怒鳴りつけたい。

けれど今の荒北に、そんな気力は露程も残っていなかった。

ただ早くこの悪夢が覚めて、自室で参考書に向かっていたあの時間に戻ってほしい。


なのに、気を失うことすら許されず、あろう事か、男の手は陰茎の更に下の、排泄にしか使ったことのない穴に触れてきた。

サーッと血の気が引く。

まさか、と思った。
だって、荒北は背は平均以上あるし、鍛えているから腹も割れているし、細身とはいえそこそこごつい。間違っても女とは見えない体をしている。

それに、今荒北は何も身に纏っていないのだ。男にしか見えないはずだ。男だと、わかっているはずだ。


なら、こいつの目的、は。

「かてえな。…処女か、コーフンする」
「―――ッ!!!」

声にならない絶叫が迸った。




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あきゅろす。
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