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目が覚めたら知らない部屋にいただなんて、なんて使い古されたフレーズだろう。
誘拐、記憶喪失、監禁事件…、言葉が浮かんでは消える。
それにしても、と荒北は考える。
さっきまで、荒北は来る受験に向けて必死に机に向かっていたはずだった。
とりあえずここまでやろうと決めた範囲まで残り1問となったところまでは覚えている。
ノルマを課さないとだらけるのがわかりきっていたし、だらだらやるよりもきっちりこなした達成感がある方がはかどる自分の質を、荒北は誰に言われるまでもなく理解していた。
(あと1問といたら、もっかい歯磨きしてさっさと寝っかァ。)
机に向かう前に歯磨きはすませたものの、ちょっと小腹がすいて菓子をつまんでしまったのだ。
耐えられない程の空腹ではなかったものの、食べてしまったものはしょうがない。頭を使うと腹減るからなァ、と誰ともなく言い訳をする。
最後は得意な問題だ、すぐ終わるだろうと、ふわあと大きなあくびをして、それから。
(そっから記憶飛んでんナァ…)
ぼんやりともやがかかったように、はっきりとしない頭でつらつらと考える。
何かを考えていないと、また意識が飛んでしまいそうだった。
体に特に痛みなどの違和感はない。頭を殴られて意識が飛んだとか、そう言うことではないらしい。
手も脚も特に締め付けられている感覚はないから、拘束もされていないようだ。
ただ、とてつもなくだるかった。
何か重りを乗せられたような、限界までペダルをまわしたあとの、もう指一本動かせないあの感覚に似ている。
肌に触れる感覚から、服はちゃんと着ているようだし、きちんと布団まで掛けられているから、ここはベッドか何かの上なのだろう。
ぱちぱちと何度か瞬きをするものの、視界は安定しない。
かろうじて知らない部屋にいるということがわかるだけだ。
夢だろうか、とふと思い浮かぶも、あまりにもリアルな感覚が夢である可能性を否定した。
(…ダァメだ、マジねみ…、…)
ぐるぐると考えてみたものの、動くことも出来ない体では何も解決策は見いだせない。これはもう一旦寝て、意識をハッキリさせた方が良いかもしれない。
とろとろと襲い来る眠気を受け入れてしまえば、眠りに落ちるのはあっという間だった。
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