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新開とのセックスは、オナニーと変わらないと思う。
己の上で必死になって腰を振る男を見ながら、荒北はぼんやり思った。
荒北はセックスで快感を感じたことがない。
チンコをこすられても、前立腺という泣き所らしい部分を攻められても、ぽかぽかと体温が上がるばかりで、逐精には至らない。
新開が下手なわけではない、と、思う。
痛みなんて全く感じないし、むしろよく入るよな、と人体の神秘を感じるくらいにほぐされて挿入されて。
これで荒北がアンアン喘いだら、新開ももっと興奮すンだろうなァ、と思いつつも、荒北は表情を変えることなく、頬を熱でほてらせたまま新開を見つめた。
気持ちよさそうな顔ォ。
実際気持ちいいんだろう、もう何度も中に吐き出されて、本来排便するための穴は精液でドロドロだ。
これ、明日下痢するフラグだ。
うんざりしながらも止めることはしない。
新開と荒北は恋人同士なのだから。
誰にも話してはいないし、普段そういうそぶりは恥ずかしくて(主に荒北が)できない。
友人としてのじゃれ合いギリギリの部分で触れ合って、たまにホモかよ、なんてネタにされて、ノリでふざけて、それだけだ。
荒北は別に、手を繋いだり、触れるだけのキスをしたり、たまにデートしたり、そういったことで充分満足だった。
エロいことに興味がないかと言われればそれはノーだが、別にしなくたって、好きは伝えられる。
けれど新開は、それだけじゃどうも不安なようで、渋る荒北に泣き落としまで使ってセックスに及んだ。
『気持ちよくねェ。』
初めてやってみたあと、素直に新開に告げた。
困ったような顔をした新開は、それでも靖友とひとつになれてうれしかった、と本当に幸せそうにくしゃりと笑った。
そォかヨ。
そっぽを向いた己の顔が赤くなっていることはバレバレだっただろうけれど、新開は何も言わずに荒北を抱きしめた。
こうして抱きしめるだけで充分なのになァ。だるい腰に眉をひそめて、それでも新開が幸せそうだから、受け入れ続けている。
もう両手でも足りないくらい、セックスをしてきた。
快楽はいまだ感じないものの、必死になって腰を振る新開は嫌いじゃない。
こんな骨と筋肉ばかりの筋張った男の体を、本当に愛しいという手つきで触れる新開に、愛おしさを感じるのも事実なのだ。
獣のようにうなって、中に吐き出された精液に、荒北は小さく息を漏らす。
慣れない感覚は、正直気持ち悪い。
掻き出すときだって漏らしているようで、なんでこの年にもなって、とむなしくなる。
満足したのか、新開が中からチンコを引き抜いて、靖友、と情けない声で荒北を呼んだ。
「ンだヨくそデブ。」
力を使い果たしてだるい腕を持ち上げて、赤茶けた髪を撫で梳いてやる。そのまま胸のあたりに顔を押しやれば、新開は涙に濡れた声で、また靖友と呟いた。
「だァら、なンだよ。」
ぽんぽん、子供にするように、もう片方の手で、背中をたたく。
気持ちよくもないセックス。違和感ばかりの刺激。
なぜ荒北が、それを抵抗することなく受け入れているか、新開はわからないのだろうか。
……わかっているのだろう。それでも不安なのだ。
触れるだけで満足できる荒北と、どれだけ触れ合っても満足できない新開と。
「スキだヨ、隼人。」
二人きりのときだけの呼び方で、やさしく新開を呼ぶ。
知ってるか、新開、俺の心ン中全部お前でいっぱいで、他のが入る隙間なんてねェんだ。
「隼人。」
荒北が出せる精一杯のやさしい声で、新開を呼ぶ。
甘やかしてやりたい。この困った恋人が、不安なんて感じられなくなるように。
セックスのあとだけは、荒北は普段の照れを捨てて、新開に好きだと告げられた。
「はーやーと。だからオメェは、俺を愛してりゃァいンだヨ。」
うん、うん、子供みたいに頷く新開をしっかり抱き込んで、荒北は何だかなァ、と笑った。
こりないやつ。
不安だからと荒北を抱く新開も、好きだから受け入れる荒北も。
どちらも恋に溺れた馬鹿なんだろう。
それでもいい。
大切に思っている気持ちは本当だから。
目をまっ赤にした新開が寄せる唇を受け入れて、荒北はそっと目を閉じた。
こんなキスだけで、充分なのになァ。
ドロドロで気持ち悪い下半身のことはひとまず忘れて、荒北は馬鹿で愛しい恋人のキスを受け入れた。
俺は幸せだから、お前も幸せだって笑ってくれよ。
気持ちよくないセックスだって、お前がアホみたいに幸せそうに笑うならいくらでも付き合ってやるから。
「靖友、好き。」
くしゃりと顔全部を使って笑う新開に荒北もにやり笑いを返して、後始末はまかせた、とくったり力を抜いた。
「わかった、おやすみ靖友。」
幸せそうな顔のまま、新開が髪を梳く。
「好きだ、ありがとう。」
何の礼だよ、と半分眠りに落ちた頭で考えながら、荒北は側にある熱にすり寄った。
セックスは気持ちよくねェけど、裸で抱き合うのは気持ちーなァ。
いつかこんなことしなくても、互いに胸はって幸せだと言えたらいい。
愛してみろよ、全部受け入れっから。
俺がどれだけお前を好きか、思い知ればいい。
そしていつか言ってやるんだ。お前を好きになって良かったって。
そんな未来を、夢見てる。
end.
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