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「で、隼人とフクが童貞なのはわかった。まあ、これからじっくりくんずほぐれつしたらいいだろう」
オフシーズンだしな、と何でもないことのように告げた東堂に新開と福富はそろってむせた。
とりあえずお茶でいいな、と渡され、一口目を含んだ直後の言葉だ。
えげつねえ、と東堂を横目で見やる。自称眠れる森の美形はすました顔でお茶をすすっていた。
「福ちゃん大丈夫?ほら、タオル使いなヨ」
「すまん」
「靖友、俺も貸して」
「てめえは自分の服で拭いてろ」
「ひどいな」
そう言いつつ、荒北は鞄の底に沈んでいたティッシュを新開に投げつける。
ぐちゃぐちゃによれていたけれど、拭ければ文句ないだろう。
ありがと、と飛び散ったお茶を拭く二人の顔には、まだ赤みが残っていた。
はあ、と何度目かわからないため息が零れる。
福富も新開も、以前は複雑な想いを抱いていたとはいえ、今となっては大切な友人だ。
友人達がうまく行ってないと言うなら、手を貸そうという気持ちくらいある。
物理的な距離が離れているからそうそう直接何かは出来ないが、電話でもメールでも話を聴くくらいなら、と思っていた。
でも今日の様子を見て、心配はいらないなと安堵した。
まだヤッていなかったとはいえ、上手くいっているようだ。
競技に集中するために互いに手を出さなかったのなら、東堂が言うようにこれからじっくり進んでいけばいい。
しかし、これだけははっきりさせたい。
ちら、と東堂を見れば、同じように二人の関係を案じる気持ちに混じって、隠しきれない好奇心が浮かんでいた。
にや。どちらともなく笑い、口を開く。
「「で、どっちがどっち」」
ぼんっ、と音が聞こえそうなくらい、一気に顔を真っ赤にした二人に、荒北と東堂は今度こそ腹を抱えて笑った。
からかわれて拗ねた福富と新開をなだめすかし、カラオケを出てファミレスに向かう。
結局一曲も歌わなかったカラオケはもったいないと思ったけれど、あんなに踏み込んだ話は個室でないと出来ないからまあ良かったと思うことにした。
少し前を歩く福富は東堂と何やら話し込んでいる。
部長と副部長という立場にあったからか、二人には独特の空気感があった。
東堂はいつものやかましさを少し押さえ、福富は少し饒舌になる。
新開とは別の、わかり合っているな、と感じる関係だ。
そして荒北の隣で口をつぐんでいる男に、荒北はため息を飲み込む。
いつもであればにこにこと笑って食べ物の話題でもふってくるのに、余程からかったことが腹に据えかねたらしい。
荒北とて饒舌な方ではないから、自然と会話がなくなる。
何か食べ物ことでも話すか、と荒北が口を開こうとした瞬間、新開の空気が動揺したように揺れた。
なんだァ?と不思議に思って新開の方を見れば、荒北の首元を見て目を見開いていた。
「やすとも、首、痕」
「……アー…」
そう言えば首に吸い付かれたなあ、と思い出し、はしゃいで忘れていた腰のけだるさが戻ってくる。
朝まで励んでしまったことを少し後悔しても、後の祭りだ。
「どこ」
「え、あ、耳の後ろ。髪で隠れてるから、気付かなかった」
「ソ、隠れてんならいいや」
軽く返す荒北に、新開の動揺は深くなる。
戸惑ったニオイに、軽く眉をゆがめ、さっさと歩けよと背中を蹴飛ばす。
「後でネ」
こくりと頷いたことを確認して、荒北は前を行く二人に早足で近づいた。
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