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ロードレースもオフシーズンに入り、進級のためのレポートを制作するのに大学に泊まり込みも多くなってきた。
出来る限り部には顔を出したり、軽く走ったりしてはいるものの、実験や課題、そのレポートに追われ、力つきて寝てしまうことの方が多い。
あの日以来金城とはチームメイトの域を超えることはなく、互いの部屋を行き来しても、共通科目のレポートのやり取りをして、結局疲れきって寝るだけだった。
金城と行為に及ぶことはなかったけれど、学業の合間をぬって、時々××と会った。
優しく溶けるようなセックスは、疲れきった心と体を癒してくれた。
疲れすぎてたたない時はベッドで眠るまで話をしたり、口で奉仕したりと××は決して無理強いはしなかった。
だからある程度は何されても許してしまうし、従ってしまう。
××との関係は上手く言葉に表すのが難しい。
金で買われているわけではないけれど、ホテル代は××持ち。
セックスパートナーかと言われれば、少し会って話すだけだったり、食事だけの時もある。
恋人ではないというのだけははっきりしているけれど。
好意はある。執着もしている。
××が荒北を本気でほしがったとしたら、荒北は逃げない。
××の手の中に入ってもいいとさえ思う。
それでも××は荒北との関係をはっきりさせなかったから、それに甘えて曖昧なまま逢瀬を重ねていた。
「ヤスくん、他の男とセックスしたでしょ」
「ン、した」
「好きな人?」
一つの大きな山を越えて、ひさしぶりに会った××と行為の後の腕の中。
うとうととまどろみながらこくりと頷く。
荒北は××に嘘はつけない。嫌なニオイがしないからか、安心して身を任せてしまうのだ。
「怒ったァ?」
「ヤスくんのえっちな姿、他の人も知っちゃったんだなあって」
妬けるよ、と言葉とは裏腹に撫でる手は優しい。
ぐりぐりと手のひらに頭を押し付けて、この男を好きになれたらな、と思う。
そうしたらきっと、幸せになれるのに。
「もうしないヨ」
金城は大事なチームメイトだ。
あの日のことを何にも覚えていない相手に、何が出来るというのだろう。
あの日のことは後悔していない。
してはいないけれど、二度目があったらきっと荒北は金城に詰め寄ってしまうだろう。
どうして覚えていない、俺はお前が好きなのに!
そんな未来が容易に想像できてしまったから、荒北はチームメイトの域を超えないように、気を遣った。
素面の時は寝泊まりしても、酒の入ったときは同じ空間で寝ないだとか、性を匂わせる言動は避けるとか、そう言ったことだけだったけれど。
(時間とれたら、髪も切らなきゃナァ)
体付きはどうしたって変えられないけれど、今泉に似た伸びて襟足がはねた髪は少し鬱陶しかった。
心配の芽は早く摘んでおかないとな、と心の中で小さく呟いて、××の腕の中でゆっくりと眠りに落ちた。
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