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口を噤むしかない(否定したい否定したい)




「ティキの馬鹿」

読んでいた本を、窓際で煙草をふかしていた彼に投げつける。

ストライク。
小さくガッツポーズ。
吸い込まれるように見事後頭部に命中した本は、重力に従って床へと落ちる。

( ご苦労 )

すばらしい働きをした本を、心の中で褒め称えた。

「…いきなし何すんの、ラビ」
「本投げた」
「角当たったんだけど」
「狙ったから当たり前さ」

彼の額にくっきりと浮かぶ青筋に、怒っているのだと悟る。
にこにこと効果音がつきそうな笑顔で怒る彼を尻目に、見事な青筋だな、と変なところに感心した。

「たんこぶできたさ?」

負けじとこちらも笑えば、はあぁ、と盛大な溜息を返された。失礼な。
溜息と共に俯いていた彼が顔を上げた。
あ、青筋が消えてる。
写真取っとけばよかった。
そんな小さな後悔をしていると、彼が立ち上がってこちらに歩いてきた。

そっと頭に載せられた手のひらに顔を上げて首を捻れば、それはもう鈍い音をたてて、頭突きをされた。

「…っ!」
「俺はもっと痛かった」
「馬鹿でも痛み感じんだ」

それは知らなかったさ。

「とことん失礼だなお前…!」

怒りというよりはむしろ屈辱に震えてるみたいだ。
目にうっすら膜が張ってきてる。
やべ、そそられる。じゃなくて。

「ティキのバーカ。学無し。単細胞生物―」
「…何でそんな言われなきゃなんねえの」
「馬鹿なのがいけないんさ」

何言ってんの、と言う目をやれば、もう諦めたような目とかち合った。

「さっきの衝撃で、更に脳細胞が死んで馬鹿になったさ」

ふふん、と笑えば、頬を抓られた。痛い痛い。
にやりと笑う彼にイラっときた。

彼の手を無理矢理引きはがして立ち上がる。
向かうはさっきまで彼が居た窓際。
しゃがみ込んで先ほどの勇者を拾い上げた。

( あ、ちょっと折れてる )

折れてしまったページを直しながら、再び彼の元へ。
彼の目線は手元の本。
この距離で投げたら…、いや、今はやめておこう。
反撃が怖い。

「てか、本当何なの?暴力反対」

勇者を本棚に戻したところで声を掛けられた。

「そこにアンタの頭があったから」
「……」
「アンタの頭の形を変形させてやろうと思ったんさ」
「…それだけ?」
「それだけも何も、何気に形が良すぎるティキの頭がいけないんさ」

そっと目の前にあった彼の頭( 主に後頭部 )に手を伸ばす。
形を辿るように撫でれば、ふと熱を持ったふくらみを見つけた。

おお、ちゃんとたんこぶできてる。

なんだか感動して、思わず力を込めた。うめき声。そんなの無視無視。

「ラービー…」

地を伝うような低音に彼の顔を覗き込む。
涙目だ。そんなに痛かったのかな。
首を傾げつつ今度は労るように撫でた。

「このまま固まっちまえー」
「ヤメテ」

半泣きだ。
え、どうしよう。可愛いかもしんない。

「…ラビ?」

黙った俺を訝しんだのか、うるんだ瞳で見上げてきた。
嘘嘘マジかよ。
火照りそうになった頬を気力で押さえ込み、笑ってやった。

「ティキの馬鹿」

ひくり、と彼の頬が引きつる。
馬鹿馬鹿、ばあか。

「いい加減にしねぇと、いくら俺でも怒るよ?」
「さっき怒ってたのはどこのどいつさ。もう忘れたんか?単細胞」
「ってめ、このやろ」
「っおわ!?って、ぎゃははははははははっ!!」

いきなり腕を引かれて、体勢が崩れたところをくすぐられた。
思いっきり。しかも容赦なく。
腹が捩れる。誰か助けろ。

「やめてほしい?」

必死に頷く。首がもげそう。

「ほい」

案外あっさりと解放されて、ちょっと拍子抜けしてしまった。
脇腹あたりがむずむずする。

「ごめんなさいは?ラビ」
「前言撤回はしねえさ。悪いの、ティキだし」

言えば、呆れたような目。
そして溜息。
少し哀れになって( 本当のこと言い過ぎたかな )、そっと抱きしめてあげた。
逞しいからだ。
今度はこの胸板にぶつけてみようか。
鳩尾も捨てがたいけれど。

「ラビの愛は、痛いね」
「こんくらい受け止めて当然さ」



(言えるわけない。その後ろ姿に欲情してしまったなんて)


「…ばーか」
「まだ言うか…」

乾いた笑いを零す彼に見えないように微笑んで、まわした腕に力を込めた。
そっとつむじにキスをひとつ。

「全部ティキが悪いんさ」

「はいはい」



自覚した想いは、燻ったまま。
何も聞かない彼に、このときばかりは感謝した。
狂おしいほどに、




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