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寒さが厳しくなってきた12月のはじめ、新開は荒北の部屋に押しかけていた。

推薦で早々に進学を決めた新開とは違い、荒北はセンター利用で受験する。

たまに走ってる姿は見るけれど、机に向かい赤本を開いていることが常になっていた。今日も荒北は押しかけた新開をちらりと見ただけで、再び問題に目を落としている。

工学部を受験する荒北は、最近は数式に向かっていることが多い。もちろん他の教科も勉強しているのだろうが、新開にとってはわけの分からない文字列が並んでいればもうお手上げだ。


前に一度、あと少しで解が出るときにちょっかいをかけて、答えが吹っ飛んだ荒北に雷を落とされてから、新開は勉強中の荒北には極力ちょっかいをかけないよう心がけている。

あの時はすっげー恐かった。今思い出してもぶるりと震える。


ずっと前に自分で持ち込んだコタツに頬を預けながら、目の前ですらすらと問題を解く荒北を眺めた。今日は得意な分野をやっているらしい。部屋に来てからずっと手はよどみなく動いているし、眉間のしわも薄い。

あまりに見つめすぎても怒られるので、時々メールの返信をしたり、お気に入りのショップの情報を見たり、荒北の邪魔にならない程度に気を紛らわせる。



部屋に来てどれくらい経っただろう。
ふと、新開は空腹を感じた。

何かないかと辺りを見回すも、そもそも荒北の部屋には余り食べ物がない。買い置きのベプシが何本かあるくらいで、小腹を満たせそうなものはなかった。


空腹だと思うと、だんだん食べることしか考えられなくなる。
荒北はまだ今日の分は終わらないようだ。

荒北は時間を決めてやっているわけではないから、終わる時間もまちまちだ。だらだら何時間もやるより、一日一日のノルマを決めてやった方が自分にはあってるから、と以前言っていたことを思い出す。

だから新開は荒北のノルマが終わるまではちょっかいをかけないし、ノルマが終わってかまってくれるのをおとなしく待っている。

まだかな、と思うけれど付箋の位置を見れば、後数十分は終わりそうにない。

ふと目の端にビアンキがうつる。

「靖友〜」
「なに」
「腹減ったからコンビニ行ってくる。ちょっとチャリかして」
「自分ので行けヨ」
「部室カギしまってんだろ」

受験勉強真っ只中の荒北とは違い、新開はスポーツ推薦のために、いまだに自主メニューを組んで練習をしている。

当然自分の自転車は部室に置いたままだし、取りに行くには現部長の泉田に鍵を借りに行く手間がかかる。

歩いてもいける距離ではあるけれど、どうせならさっさと行って帰ってきて、少しでも荒北のそばにいたい。

じっと見上げる新開に短くため息をこぼした荒北は、傷一つでもつけたら死刑といって鍵をテーブルに置いた。

ポケットに入れたままだったのか、荒北の体温であたたかい鍵を礼を言って受け取り、ビアンキ片手に部屋を出る。一旦自室に戻って上着と財布を取って、そのまま外に出た。

思ったよりも寒い外にちょっとだけ行く気力がなえるけれど、空腹にはどうしても勝てず、ビアンキにまたがってコンビニを目指した。




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あきゅろす。
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