8
ぱちり、と目を開ける。
とても幸せな夢を見ていた気がするが、何も覚えていなかった。
ゆっくりと起き上がり、部屋を見回す。
知らぬ部屋だ。清潔感のある整った部屋。
あの後、誰かに見つかって運ばれたのか。
面倒なことになった。
家主が来る前に出て行ったほうがいいだろう。
何を吹っかけられるか分からないが、善意だけで保護しようなんて考えを持つ人間などいない。
金ならまだいい。昨夜の稼ぎがある。
体でも、まだいい。昨日の今日でつらいが、出来ないことはない。
一番恐ろしいのは、ここに監禁されることだ。
そういった性癖をもった人間がいることを、身に沁みて分かっていたから。
力の入らない足を叱咤して立ち上がる。
鞄は近くに置いてあった。中に学生証と財布が入っていることを確認して肩にかける。
音をたてないようにドアを開け、廊下に出る。
玄関はすぐ近くにあった。
途中にあるドアから数人の男の声が聞こえて背筋が凍った。
昨日の男たちだったらどうしよう。あれだけ好き勝手しておいて、まだ足りなかったのか。
勝手に震え出した体に泣きたくなって、早く逃げなければと気だけが逸る。
玄関のドアに手をかけたとき、ガチャリ、と背後のドアが開いて、声が近くになって。慌てて出ようとしたけれど、間に合わなかった。
肩を掴まれ、無理やり中に戻される。
力の入らない体はいとも簡単に中に投げ出された。
…また、犯されるのだろうか。どうせなら、痛くないといい。
諦めて全身の力を抜く。
声をかけられたが何と言われたのか分からなかった。
抱き起こされてリビングに連れられても抵抗しなかった。
数人の男の足が見える。
酷くされませんように。
唇を噛み締めて叶わぬだろう願いを裡で唱えた。
殻に閉じこもる。ちっぽけな自分を守るために。これ以上酷く傷つかないように。
(これ以上傷がつくものか)
嘲る声に聞こえぬふりをした。
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