[携帯モード] [URL送信]
 


「私には自信があります」


ふと、帳簿を付けていた手を止め、薄茶色の髪の少年は呟いた。

もう日付は変わり、夢の中へと落ちてしまった下級生を長屋まで送って、最後の追い込みに入っていたところだった。


声に目の下に色濃い隈を宿した少年は顔を上げる。

それを聞こえなかったと取ったのか、薄茶色の髪の少年、田村三木ヱ門はもう一度同じ言葉を繰り返した。

「私には、自信があります」

元来彼には自信家の嫌いがあったので、もう一人の少年、潮江文次郎は顔を帳簿に戻し、そうか、とだけ返した。

文次郎は疲れていたのだ、もう徹夜4日目でしかも実習は重なるは宿敵の食満留三郎と無駄に喧嘩してしまうはで、彼には珍しく参っていた。体力的にも、精神的にも。

そんな文次郎に気付かないのか、三木ヱ門は素っ気ない返事を気にすることなく言葉を続けた。


「先日、平滝夜叉丸と言い合いになったのです」

滝夜叉丸とは三木ヱ門のライバルで、暇さえあれば争っている姿を見かける。文次郎が留三郎と喧嘩するように、学園内では皆が見慣れた光景だった。

筆をはしらせつつも、耳を傾ける。彼なりの眠気覚ましなのだろうと思った。


「来世を信じるか、と聞かれたのです。もちろんそんな夢見がちなことを考える暇があったなら鍛錬に励み、自らを高めるべきだろう、とそう返しました」

「来世を?」

「生まれ変わりとも言っていました。酔狂なと返せば、私もそう思うなどとよくわからないことを言うので、何故そんなことをと問うたのです」


三木ヱ門は遠くを見る目で言葉を紡ぐ。文次郎は自分の手が止まっていることに気付いていたが、彼から目が話すことができなかった。




「もしも、もしもだ三木ヱ門」

普段の傲慢な態度を潜め、どこか夢みるように滝夜叉丸は呟く。

「今が疎ましいというわけではない、私は私が素晴らしいと誇っているし、不満などないが」


もしも来世で、戦のない世に生まれ変わることができたなら、愛する人と、日の下を歩きたい。





「馬鹿な奴でしょう」

思い出すように言った三木ヱ門は、しかしその瞳は嫌悪ではなくどこかうらやましがるようだった。


もうすぐ、冬が来る。夜は冷えたし、冷たいすきま風も吹き込むようになっていた。


「私には、自信があります」

もう三度目の言葉を、けれど今度は文次郎の目をはっきりと見て、繰り返した。

「生まれ変わりだの来世だの、そんなこと馬鹿げていると思います。けれどもし、来世で生まれ変わることができたなら、」

(私は、誰よりも先に貴方を見つけられる自信があるのです)



手にするにはあまりにも浅はかな





2/2ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!