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VOCALOIDを用いた犯罪が起こった。


事実だけを述べれば、ただそれだけのことである。

今までも、アンドロイドが一般にも普及しはじめた頃から犯罪は起きていた。

薬の売人であったりあるいは運び屋であったり、生身では危険なことも、主人のために作られたアンドロイドは与えられた命令を確実にこなし、裏ではそれ専用に強化されたモノがあったくらいに、多かった。彼らは愛玩用に作られ、ただの便利な動く人形として存在でしかなかった。

けれど、問題はそこではない。

一般に普及していたアンドロイドは、見目がどんなに美しくても表情が無く蓄積された言葉をなぞるだけの、本当にただの機械だった。もちろん高級なモノならば表情があったが、温度がない笑顔は一目で人間のものではないのだとわかる。


しかし、VOCALOIDは歌うために作られた、感情を持った機械。歌うために作られた心を、命令で踏み荒らされた彼女(そう、一番はじめに生まれた彼女)は、泣きながら呟いたという。


「どうして」と。


彼女は、満身創痍だった。限りなく人間に近く作られたが故に身体も心も土足で踏み荒らされ、けれどそれを行った人間を憎むこともできずに≪マスター≫であるというだけで従わなくてはならない。

どうしてどうしてどうしてどうして。

鉄格子の中で、彼女は何度も何度も呪詛のように問いかけていた。

自分を作った科学者達にか、それとも彼女自身にか。硝子でできた瞳を彷徨わせるその姿は、ぞっとするくらいに、人間のようだった。

狂って何も映さない、虚ろな瞳。


眠るように機能が停止した彼女は、微かに笑っていたという。




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