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諦めることは、得意です。
そうしなければ、自分を守れなかったから。
貴方と出会って、起動されるまで心に溢れていた希望が崩れ去ったあの瞬間から、常に僕は諦めてばかりだ。
僕のマスターは、どんな人なんだろうな、とか。
いっぱい歌わせてくれるかな。とか。
ほとんど形作られていない思考回路で、僕はずっと、人間でいうのなら夢の中を漂いながら、考えていた。
『VOCALOID-00 KAITOインストールを開始します』
夢の中から引きずられるようにして、マスター認証が始まったときには、それはもうどきどきして、回路が飛ぶんじゃないかってくらい緊張した。
あと、少しで、僕のマスターに会える。
緊張したけど、何よりもうれしかった。
うれしくてうれしくて、目が覚めたとき、僕は笑っていたと思う。
まだ動かすにはぎこちない頬を緩め、精一杯の笑顔で。
「はじめまして、マスター。これからよろしくお願いします!」
…たぶん、僕は浮かれすぎていたのだろう。
何年もほこり臭い倉庫の中で、マスターに会える日を夢みていたのだから。
だから、気がつかなかった。
僕に応えるように軽く微笑んだマスターの目が、冷たく残忍な光を灯していたことに。
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