[携帯モード] [URL送信]
3


諦めることは、得意です。

そうしなければ、自分を守れなかったから。


貴方と出会って、起動されるまで心に溢れていた希望が崩れ去ったあの瞬間から、常に僕は諦めてばかりだ。



僕のマスターは、どんな人なんだろうな、とか。

いっぱい歌わせてくれるかな。とか。

ほとんど形作られていない思考回路で、僕はずっと、人間でいうのなら夢の中を漂いながら、考えていた。


『VOCALOID-00 KAITOインストールを開始します』


夢の中から引きずられるようにして、マスター認証が始まったときには、それはもうどきどきして、回路が飛ぶんじゃないかってくらい緊張した。

あと、少しで、僕のマスターに会える。

緊張したけど、何よりもうれしかった。


うれしくてうれしくて、目が覚めたとき、僕は笑っていたと思う。

まだ動かすにはぎこちない頬を緩め、精一杯の笑顔で。

「はじめまして、マスター。これからよろしくお願いします!」


…たぶん、僕は浮かれすぎていたのだろう。

何年もほこり臭い倉庫の中で、マスターに会える日を夢みていたのだから。



だから、気がつかなかった。


僕に応えるように軽く微笑んだマスターの目が、冷たく残忍な光を灯していたことに。




4/9ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!