2
目が覚めたとき、空は黒くなり始めていた。
気怠い体を起こして、彼女の名前を呼ぶ。
返事が、ない。
まだ会議から戻ってきていないのだろう。
「…、かえろ」
待っている理由がない。
今日のお礼は、明日すればいい。
ベッドから抜け出して、ドアに手をかけた。
ふと目に入った鏡に、いつも通りの笑顔を向けてみる。
きもちわるい。
ばかみたいなえがお。
なんだか嫌になって、全部消した。
表情も気配も、感情の、起伏も。
本当の俺は、きっと、これ。
だって一番楽だ。
ドアを開けて静かな廊下を歩いた。
もう外は、暗い。
俺と同じ、漆黒。
このまま溶けてしまいたい。
もう二度と、生き返ってしまわないように。
後何回繰り返したら、この身体の限界がくるんだろう。
「…セン、パイ…?」
「…とー、や?」
後ろから戸惑ったように声を掛けられて振り向く。
驚いた顔。
あぁ、そういえば、作ってない。
「見回り?おつとめごくろーさま」
「え、あ、ハイ。…放課後の生徒の校舎立ち入りは禁止ッス。てなわけで帰ってください、センパイ」
「おー、今出てくよー」
いつも通りに笑いかければ、安心したように注意された。
馬鹿みたい、馬鹿すぎる。
どうして疑わないのか。
目の前にいるヒトの形をした化物を、どうしてそんなに、やさしい目で見るの。
気味が、悪い。
気持ち悪い。
誰か疑って罵って痛めつけてやさしくしないで笑いかけないで痛い、痛いんだ もういいでしょう気が済んだでしょういくらでも笑ってやるから近寄らないで構わないで触らないでいやだいやだいやだ!
独りに、戻してよ。
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