3 「最初に言っておくけど」 「とりあえず行くぞ。で、何」 「先生はねー止めたりしないよ。治療はしてくれるけど」 「…は?」 「だから、保健のせんせは、なんて言うか呆れてるっていうか…何だろ?」 「常習犯かよ」 「犯罪者じゃあるまいし。…でも気にはかけてくれてるみたい」 余りにも血が止まらないときとか、中々違和感が消えないときくらいしか行かないし、先生はやめろともいわない。 でもそれは、無関心とかじゃなくて、俺の性癖だと理解した上での沈黙だと思ってる。 というか、そこまで酷くなければ自分で何とか出来るし、何度もやってる分どうすればいいかもわかる。 「これくらいほっといても治るしさ、てか何で他人で、しかも今日初めて会ったばっかりのあんたが熱くなってんの」 「あんたじゃなくて、俺は矢崎皇太。さっきは帰るところだったんだけど、イスに向き合ってる変な奴が居たから声かけたんだ」 「ふ−ん。で、お節介な矢崎クンは俺をどうしたいわけ?」 「どうって、」 「俺は好きでやってんの。他人に口出しされたくないし、あんたのは余計なお世話。…それじゃ、二度と声かけないでね」 随分冷たい声が出せるものだ、と自分に驚いた。 途中で邪魔されたイライラと、異質なものを見る目が癇に障った。 別に普通に見て欲しいわけじゃない。ずっと向けられてきた目だから慣れてる。 でもなぜか、こいつにだけは、そんな目で見られたくなかった。 俺の性癖を知らなかったとはいえ、戸惑いなく俺に触れてきた人は、本当に久しぶりだったから。 だから。 そうだから、うっかり名前を教えてしまったのだ。 そこからが、俺にとっての悪夢の始まりだと知らずに。 ← |