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悪天クライシス
通常運転です


天界某所。

ここにひとり、眩しいほどに白く輝く床を踏み鳴らしながら歩いている悪魔がいた。その悪魔は背の翼だけではなく、長く伸ばした髪も真っ黒で。端から見れば、白黒のコントラストが美しいと思うだろう。

その黒髪の悪魔――ジェシカは、端正な顔を思いきり歪めていて。どう見ても機嫌が悪い様子だった。
彼女は今、取り巻きを連れていない。時刻が時刻だから、皆帰らせたのだ。

魔界人は…いや。魔界人も天界人も、別に下界の人間のように就寝する必要などないのだが、取り巻きの中には元人間の悪魔もいる。
元人間は、どうやら人間だった頃の本能でも残っているのか、夜は眠るという者が多い。

(確かに、眠るのは気持ちの良いことですけれど。七時間やら八時間やら、そんなに長い時間眠る意味がわかりませんわ)

ジェシカのような純粋な魔界人からしたら、元人間の言い分はよくわからない部分も多い。

が、彼女は自らの寛大な心を持って、元人間の就寝を認めて。また他の純魔界人にも、フリーの時間を与えてることにしていたのである。


(……)

そんな事を考えながら、ジェシカは歩き続ける。目的の部屋が近付いて来るとまたイライラが大きくなってきて、知らず知らず拳をぎゅっと握り締めた。
どこを見ても、天界の白、天使の白が目に入って。適当な壁を殴ってぶっ壊してやろうかと思ったが、いやいやこの怒りはこれからのアレにとって置こうと考え直し。ジェシカは拳に力を込めながら足を急がせた。


――…着いた。ジェシカはよく見知った扉の前に立ち止まる。…いや、『よく見知った』というのは語弊があるかもしれない。なぜなら――


「――…フンッ!!」

気合いと怒りとその他もろもろを力いっぱい込めた掌底が、今まで溜まりに溜まったフラストレーションを吹き飛ばすように叩きつけられる。
触れるものすべてを打ち砕く掌底に、扉が耐えられる筈もなく。白く輝く扉は、雪が舞い散るように儚く、…崩れ去った。

その時の彼女の表情は…対悪魔にするようなお淑やかさは皆無。むしろ、なにも知らない人間が見たら同一人物には全く見えないだろう般若の如き剣幕だった。


「……汚らしい」

壊れた扉の破片を見下ろしながら、ジェシカは吐き捨てる。そうしてそれらをなるべく踏まないように、舞い散った埃に顔をしかめながら歩き出した。
目的は元々、この部屋の中にあったのだ。


「……ちっ」

舞っていた埃が晴れた時、視線の先にいた人物にジェシカは思わず舌打ちをした。

「……」

空色の髪に、白い翼を持つ天使。こちらを一瞥もせず、そしてなぜか傷どころか埃ひとつついていない姿。

「…天使長!」

ジェシカは鋭い声を上げる。自分の部屋の扉が勢い良くかつ盛大に破壊されたというのに、天使長はどうやらジェシカの存在にようやく気が付いたらしい。
いつものように(ジェシカが)腹立つ、やる気のない目つきをして、天使長はぼそりと呟いた。


「……ああ、また貴方ですか」



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