[携帯モード] [URL送信]

悪天クライシス
許容範囲外

「あなたが天使として生を受けた誕生日は?」

「? …なんで急に」

「いいから答えてください」

今までの話題とは無関係と思われる唐突なカレンの問いに、一火は首を傾げながら。

「…七月、八日だけど」

昨日話をした時にそれは言った筈なのだが。
一体カレンは何を考えているのか、そう思った時だった。
カレンは一火の答えに頷き、その真意を告げる。

「そう、七月八日。…その日は、私の悪魔としての誕生日でもあるんですよ」

「!」

「だからですかね。…あなたには少し、親近感のようなものも感じているんです。本当に少しですけれどね」

カレンの告白に、一火は驚くばかりだった。
彼女も自分と同じように数日前に生まれた事は聞いていたが、まさか全く同じ日だとは思わなかったのだ。

つまりそれは…同じ世界で同じ日に、自分達は死んでしまったのだという事で。

確かにその事実を聞くと、不思議と親近感が湧く気がする。
それは自分達が似た目標を掲げているからというのも理由のひとつだろうか。

「まぁ、あなたは話をしていて非常に愉快な方だからというのもあるかもしれませんが、ね?」

含みのある言い方にからかわれているのだと気付いた一火は顔を歪ませる。

「うるせっ。…それよりも、」

しかし、ここで口論する事は一火の本意ではない。
何故なら、もっと他に言うべき事があったからだ。

「…お前がオレに親近感抱いてるなら、さっきの『他人』発言は間違いなんじゃないか?」

一火の発言に、カレンは毒気を抜かれたようにぱちぱちと目を瞬かせた。

「昨日も事故だなんだと色々こだわってましたけど、あなたは細かい事を気にする人ですね」

「いや、昨日のアレは気にしない方がおかしいだろ…」

確かにこちらも悪い事はしたが、それどころではない程の一方的暴力を受けたのだ。それを気にしない方が怖いだろう。

「しつこい男はモテないって聞きますよ?」

「…るせー」

元々この目つきのお陰でモテ期なんてなかったよ、と心の中で悪態を吐く。
カレンはそんな一火をくすくすと笑った。

「ふふふ。でも、確かにあなたの言う通りかもしれませんね。
『他人』発言は撤回しましょうか」

「………」

「…ふふっ」

「な、なんだよ…」

一火を見るカレンは何か企んでいるような、意地悪な笑みを浮かべる。
どこか妖艶さも漂わせるそれは、まさに悪魔に相応しい『悪女』の姿。
一火は非常に嫌な予感がした。


「天使さんは、そんなに私に他人だと思われたくなかったんですか?」

「……?!!」

あまりの衝撃に、声を発する事が出来ない一火は魚のように口をぱくぱくさせる。
…今、目の前の少女は何を言った?
自分の耳を疑ってしまう程、その言葉は一火にとって許容し難いもので。
しかし少女はそんな一火を見ても容赦しないどころか、さらに笑みを深めて続ける。

「だってそうでしょう? どうでもいい事なら、わざわざ私の発言を間違いだって言う理由が見つかりませんもん」

「そっ、そ、それは…ッ」

返す言葉もない一火は、かあっと熱を持ち始める顔を見られないよう、カレンから顔を逸らす。

「どうやらあなたの反応を見る限り、私の自意識過剰ってわけでも無さそうですし…ねっ!」

「――ぅわッ!?」

刹那、一火は隣の少女に腕を掴まれ、ぐいぐい引っ張られた。
カレンの予想外の行動に目を見張る一火は、しかしそれでも彼女に顔を合わせない。

「…ちょっと、天使さん? 人と話す時は目を合わせろって言われませんでした?」

暗にこっちを向けと言われている訳だが、未だ熱の冷めない一火は頑として譲らない。

やがてカレンが溜め息を吐くのが聞こえ、諦めてくれるかと安堵した時。


「イデッ、デデデデ!! や、やめろぉっっ!!」

突如訪れた腕の痛みに、がばりと犯人の方へ向く。

「私だって不本意でしたよ? あなたがこっちを見ないのが悪いんです」
一火の腕を力強くギュウッとつねってみせたカレンは、自業自得だと言い放つ。

「お前だってさっき話してる時顔合わせなかっただろ!」

「あら、そんな事ありましたか?」

「てめっ…は、は、…っくしょん!!」

ギリギリでカレンから顔を逸らした一火が発したのは大きなくしゃみ。

…そういえば、自分は一度着水した関係で身体が濡れていたのだという事を思い出した。



[*前へ][次へ#]

7/27ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!