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悪天クライシス
水着がどーのこーの


「――…って、何だよコレ…」

人々の…正確には悪魔達のざわめきをバックに、一火は呆然と呟いた。

彼が連れてこられたのは、人間界でいう市営プールのような、特別広くも狭くもないプール広場であった。
中央に一番大きく深いプールがあり、それを囲むように二つ、計三つの泳ぎ場がある。
…勿論、それだけならば一火は大して驚かない。

「…話には聞いていましたが、これは私も予想以上ですね…」

そんな一火に、隣のカレンすらも同意する。


二人が驚いたのは、プールの水の色。例えるなら溶岩か、魔女がかき混ぜる怪しい薬か。
そんな、どれも彼らからすれば有り得ない、人間界とは似ても似つかぬ色をしていたのだ。

しかし、呆然としているのは彼ら位のもので。
周囲の悪魔達はみな、水泳を楽しんでいる様子であった。


カレンはどうやら、ここでカナヅチを克服するための練習をしたいらしい。
というのも、界泉の中では会話もままならないのでそれでは指導を受け辛いからという事と、魔界で自由に泳げるのもここだけだからという簡単な理由だ。

カレンは気を取り直すように大きな咳払いをしてから。「…まっ、まあいいでしょう。早く行きますよっ」

「オレ達水着じゃないけど…大丈夫なのか?」

「靴さえ脱げばいいみたいですよ? 服で泳ごうが水着で泳ごうが自由だそうです」

「はあ…」

何というか、適当だな…と一火は思わざるを得ない。
確かに泳いでいる悪魔達を見てみれば、普通の服を着ている者もいればしっかり水着を着用している者もいる。

「天使さんの服は知りませんけど、悪魔の服はあまり着替えを必要としないようにつくられているとか何とか。…それも寂しい気がしますけどね」

あなたはどうします、一応着替えますか?

カレンはそう言って手提げ袋を一火の目の前に翳す。

「着替えって…お前、それ男物だよな…?」

「ええそうですよ。誰があなたに私の水着を渡すもんですか」

当たり前でしょうと鼻を鳴らすカレンは、どうするんです? と言葉を重ねて来る。

「いや、それ…どっから調達してきたんだよ」

「あなたも大方予想しているでしょう、イアンのですよ。
昨日の夜に私がルビエを通してイアンの部屋からくすね…いえ、借りたんです」

「おい今何て言った」

カレンよりは常識人だと思っていたルビエが、まさかそんな事に協力しているとは。

一火は心の中でイアンの苦労を偲ぶ。普段から彼は女性陣に苦労させられているのだろう…。

「あぁもうッ、どうするんですか? ここで水着に着替えてあなたの半裸を魔界に曝すのか曝さないのかっ、早く決めて下さい!」

「そういう言い方はやめろ! 男がみんなして変態みたいだろうが!!」


その後、結局一火は水着には着替えない事にした。
理由はイアンの物を勝手に使うのは流石に悪いと思ったからであり、決して天使の羽根が生え背中を晒したくなかったとかそういう訳ではない、と彼の為に記しておこう。


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あきゅろす。
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