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悪天クライシス
謎な悪女


「あ、意外と早かったですね」

界泉を通り、再び魔界へとやってきた一火を迎えたカレンの第一声はそれだった。
今回は事故が起こらないよう、しっかりと界泉からは距離を取っている。

おはようございますと挨拶をするカレンは、彼女の髪とよく似た赤色の手提げを握り締めながら「もっと遅く来るかと思いました」と言葉を続けた。
一火はその台詞に訝しげに首を傾げる。

「お前がこんな早い時間に来いって言ったんだろ」

「そうですけど、悪魔さんはあまり待ち合わせの時間を守らないと聞いたものですから」

「…へ? 今のオレは一応天使」

一火の答えを待っていたとばかりに、カレンは意地の悪い笑みを浮かべる。

「あぁごめんなさい、あまりにも壊滅的な容姿ですから悪魔さんが擬態でもしているのかなと」

「なっ、お前今更そんなネタ!!」

「うふふ、その口をあんぐり開けた間抜け顔もなかなかに面白いですよ?」

「何だと……はっ!」

一火はそこで思い留まった。
…このままでは、自分は毎回毎回こいつのペースに乗せられて、弄ばれると。
ここで一矢報いなければ、自分はただのストレス解消用のサンドバッグのように言葉の暴力を叩きつけられ続けてしまうと!

「どうしました、また視●ですか? 一度ならず二度までも…ほんっとにヘンタイなんですね」

「ちげぇよっ、この…下ネタ暴力悪魔!!」

渾身の力と思いを籠めて放った言霊は、狙い通り(?)カレンの心にグサリと来たらしい。
たちまち笑顔は歪み、心外だとばかりに睨みつけてくる。

「な…! かよわき乙女に不純な称号をつけるのは止めてください!」

「人を殴って壁にめり込ませた挙げ句、椅子に縛り付けた奴のどこがかよわき乙女だ!
お前には悪女の方がお似合いだっ、この悪女!!」

「あっ、悪女とは失礼ですね…! 私は未来の天使ですよっ?
せめて眩い光を放つ天女と訂正してください!!」

「お前が天女だったらこの世の女という女は皆仲良く天女だよ!」

言い争う事数分。他愛のない口喧嘩は、カレンの言葉で唐突に終わりを告げた。


「…って、こんなお馬鹿な争いをしている場合じゃありませんっ! 早く行きましょう!」

誰のせいだよ、と思いつつも一火はカレンに問う。

「行くってどこにだよ? それに、イアン達はいいのか?」

昨日三人と話した場所は、魔界宮殿のイアンの部屋だったらしい。
一火はカレンと約束を交わした後に彼女の部屋の位置を教えられ、今日はそこで待ち合わせようという話になっていた。

だというのに、カレンはその直後「一時間前に来て下さい」と言い、しかも自分の部屋ではなく界泉で一火を待っていた。
どういう事なのか、一火はそろそろ説明が欲しいところである。

「イアン達には、ちゃんと置き手紙を残しましたから。だから、大丈夫です」

「何だ、一緒にいられると困る事でもあるのかよ?」

一火の素朴な疑問に、カレンは微妙な反応を示す。
その表情は一火の問いに対する肯定とも否定とも取れない、複雑なもので。

「……そういうわけでは、ないんですけど。…ほらっ、とにかく行きますよ! 場所はついてきてくれれば分かりますからっ!」

暫くどう答えようか迷っている素振りを見せていたが、やがて気持ちを切り換えるように明るく言って見せる。
そんな彼女に追究するのも悪い気がして、一火はそれ以上問いを重ねるのは止め、先導するカレンについていく事にしたのだった。



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あきゅろす。
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