水の姫神子 『彼』の温もり ――少女は目をかたく閉じて、『それ』に身を委ねていた。 身体中に伝わるのは、冷たさと温かさ…相反したもの。 少女は自分の身体を包み込んでいくそれらの感覚が、まるで母に腕に抱かれているようなものに思えた。 辺りを支配するのは、静寂と…ほんの少しの雑音。 …いや、雑音と言うのはあまりにも無礼だろう。 漂う少女を水面越しに覗き込む外界には、こちらの世界にはない『風』があるのだから。 ――そろそろ、出なくてはいけないだろう。 少女は自分の限界を把握していた。だから直感した。 けれど、この水の世界にもう少し浸かっていたい。そう思い少女は身を委ね続ける。 (…ああ、もう) 時間のようだ。 静寂を乱す音に『彼』が外界からこちらにやってきたことを察し、少女…華夜は目を開けた。 ――そこにいたのはひとりの少年だった。 ひと纏めにされた長い髪は水の中で優雅に踊り、その身を包む和装は、相も変わらず着ている者の身体より一回りも二回りも大きい。 何だか背伸びした子供のようだと華夜は思った。 そんなことを考えている内、少年は華夜を包み込むように抱き締める。 少年の腕にほとんど力は込められておらず、まるで壊れものを扱うかのよう。 …けれど華夜は、少年を『心強い』と思った。 そうして少年は、華夜とともに外界へと浮上していく。 華夜は新たに伝わる少年の温もりに、再び目を閉じて…顔を埋めていた――……。 [*前へ][次へ#] [戻る] |