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水の姫神子
どちらも同じ、彼。

華夜はカイリに見つめられ、その瞳に吸い込まれそうな錯覚に陥りながらも、何とか落ち着かなければと思った。
一度目を瞑り、深呼吸をして…カイリの言葉を心の中で強く噛み締める。

――姫神子の儀を、受けたいのか。
――それとも、受けたくないのか。

受ければ、死。
受けなければ、生。

つまりは、そういう事だ。
しかし、死の先など解らないように、生の先に何があるかもまた解らない。


儀式を受けて死んだら、『自分』という魂はどうなる?
儀式を受けず生に縋り、世界に背を向けた姫神子は、どうなる?

そして…。


――カイリは、どうなってしまう?

きっと彼は、儀式を受ければ消滅してしまう。
もしも、自分が儀式を受ける事を拒んだら?

彼はどうする? 何を思う? どうなってしまう?
…何も、解らなかった。


華夜は静かに目を開ける。彼女の答えを待つカイリは、何も言わない。
…それが答えだと思った。


「…私は、儀式を…受ける」

――…一瞬だけ、カイリは華夜の言葉に目を見開いた。
「……宜しいのですか? 貴女は世界の為に、その命を…捧げると、いうのですか…?」
衝撃を受けた様子で口を開いたカイリに、華夜は今一度強く頷いてみせる。

「もし私が『受けたくない』って言ったら、きっとカイリはその為に精一杯協力してくれてたんだと思う。…私の好きなカイリは、そういうひと。
…でも、それじゃあ駄目だって思ったの。もし儀式を受けなかったら、この先私は…一生後悔する」

儀式を受けずに生を取れば、もしかしたら今まで知りもしなかったような素晴らしい人生が歩めるかもしれない。
けれどその時、カイリはどうなっているだろうか。

カイリは優しい。だから華夜の前では、きっと笑っている。華夜の為なら、全力を尽くすだろう。

…しかし、その裏で……カイリはずっと、『守護聖』である自分の使命から背を向けた罪の意識に苛まれる。それは人としての心、守護聖としての心、どちらも同じ…切っても切り離せない彼の感情なのだ。

華夜の答えだけを待ち、自分の事を何も話さない彼を見て、解ってしまったのだ。
そしてそれに気付いた時、『儀式を受けない』という選択肢など華夜の心からは跡形もなく消え去っていた。
しかしそれに気付いた事は、華夜にとって何よりも素晴らしい事に思えた。

――彼の感情に触れられた。彼の心に、気付けたのだから。

「……ひめ、さま」
華夜が放つ、一つひとつの言の葉。
それらに強い意志を感じたカイリは、――…一粒の涙を零した。




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あきゅろす。
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