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水の姫神子
重い言葉

「…私は今まで…ずっと貴方に、そんな重荷を…背負わせていたのね…」
「! いえ、姫様…! そうではありません、これは僕の自分勝手な感情であって、姫様が気に病む事など何も…っ!!」
華夜の言葉に目を見開くカイリは強く否定する。貴女は何も悪くないのだと。

しかし、その否定が更に華夜の心を暗闇へ蝕んでいく。
(私は…カイリの気持ちを今まで、ちゃんと理解せずに…ずっと…カイリにとって残酷な事ばかり言ってた)

自分が言わずとも、彼は自分の事を姫神子ではなく『華夜』という一人のひととして見てくれていた。
何故、それに気付かなかったのだろう?
――彼が優しいひとだというのは、解っていた筈なのに。

「……っ」
涙が滲みそうになるのを、歯を食いしばって必死で耐える。
…自分に、涙を流す資格なんて、ない。今までずっと…泣き出したかったのはカイリの方だろうから。

「…姫様」
そんな華夜の姿を見たカイリはしかし悲しそうに目を細めた。
「……カイリ…私…っ…ごめんな、さい」
頭の中で色んな言葉が、彼に伝えたい言葉が渦巻く。
けれど、結局言えたのはやはり彼の名だけだった。

「…貴女はいつだって、そう僕を呼んで下さいましたね」
じわりと滲み出した涙を拭うように、カイリは華夜の頬に触れる。
悲しげに揺れる瞳はそのままに、笑みをつくった。
それは今まで幾度かしていた自嘲の笑みではない。もっと純粋な、目の前の少女に対する慕情から来る温かなものだった。

「一介の守護聖ではない『カイリ』という人である時だけは、僕は幸せでいられました。人としての名前を、心を手に入れられた僕は…本当に幸せでした。
そして、それは全部…姫様、貴女が与えて下さったものです」
「…!! そん…な」
いよいよ感極まって、自然と涙を流してしまう華夜。
カイリは否定の言葉を連ねようとする華夜を制止するように首を振り。

「貴女から頂いたものはとても大きく、数え切れない程に多い。けれど、僕は少しでも貴女に恩を返したい。
…姫様、正直にお答え下さい」
温かな笑みから転じて、真剣な面持ちで見据えて来るカイリに、華夜は自然と緊張感に包まれる。

――華夜はカイリが放った言の葉に、耳を疑った。


「姫神子の儀を、貴女は受けたいですか。それとも…受けたくありませんか」

…華夜は狼狽せざるを得なかった。
何故ならそれは華夜とカイリ、両方の存在意義を失う言葉だったからだ。
それを、今まで人でありながら守護聖であろうとした彼が、言った。

その意味は、とても重い。




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あきゅろす。
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