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短編/外伝集
『バケモノ』
苦しい。

─忌まわしい─

辛い。

─イミゴだ─

怖い。

─気味が悪い─

やめて、やめて。

─忌み子だ─


やめて、やめて、やめて、やめて…!!



森の大陸レスタルは、他の大陸と殆ど関わりを持たず、また大陸全体が鬱蒼とした森に覆われており、非常に閉鎖的な雰囲気を放つ大陸だ。

さらに、森の奥深くに住む一族は、他の大陸の者達から『異形の者』と呼ばれている。
それは誰が始めに言い出したかも分からない、ただの噂。
だが、ただの噂である筈のそれは、人々の心に深く浸透していた。
それは何故か─。


「それはね、私達がずーっと森の大陸に閉じこもってるからなの」
森の大陸の奥深くに住む一族は、守り神レスタルの血を引く誇り高い一族。
それ故に、他の大陸の人間と関わることを嫌っているのだ。

「…だれも外に出ないの?」
「ええ、そうよ。…だから、みんな怖がっているの。『森の大陸の奥深くに住んでいるのは、化け物だ!』ってね」
木で出来た小さな小屋の中の、小さな部屋。
そこに寄り添う少女達の姿があった。
歳は十にも満たないだろう長髪の少女が、十代前半程と思しき短髪の少女に抱きかかえられている──姉妹だろうか。

「…バケ…モノ……」
妹は姉の言葉に、少なからずショックを受けた。
それは、自分達一族があらぬ誤解を受けていることに対するショックよりも、遥かに大きかった。

─大好きな姉の口から、『バケモノ』だなんて言葉を聞きたくなかったのだ。

「塑羅、これは仕方ないのよ。人は自分が知らない、理解出来ない物に対して、凄く臆病になるんですって。昔お父さんが言ってたわ」
姉は、妹の真意に気づかない。
励ましたつもりだろうが、何の励ましにもなっていない。

「…塑羅?どうし──」
その後も黙り込み俯く妹を不審に思い、顔を覗き込もうとした。
─刹那、玄関から姉を呼ぶ声が聞こえた。

「あっ……」
待たせてはいけない。早く行かなくては。
しかし、先程の妹の様子が気になり、少し躊躇っていた。
「…おねえちゃん、ティクアさんだよ?………お仕事、頑張ってね」
「……え、ええ。…そうね。それじゃあ…行ってくるわね、塑羅」
「…うん……いってらっしゃい」

慌ただしく部屋を出て行く姉を見届ける。
…『仕事』とは、毎日ティクア─近隣の住人─と共に、森を育む植物の様子を見回りに行くこと。
朝方に出掛け、帰るのは夕方。
その間、妹─塑羅─は何時もひとりだった。

「………」
寂しいという気持ちは少なからずあるが、姉は自分達姉妹の為に頑張っているのだと思えば、辛くは無かった。

─むしろ、辛いのは…。

「………っ!!」
塑羅が背もたれにしていた壁が、突然反対側──家の外から強く叩かれた。
弾かれるように壁から離れると、壁を叩いていた犯人が窓際に顔を出した。

「よお。今日も来てやったぜ、『バケモノ』」
「………」
トーヤ。
塑羅より二つ程年上の少年。
彼は塑羅がひとりになる頃に毎日やってくる。
そして、呼ぶのだ……『バケモノ』と。




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あきゅろす。
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