短編/外伝集
言いたい事、言えなかった事
――わたしに言いたくても言えないことを、ロックは一人で抱えてるのかな。
そう思うと、さっきまで感じていた緊張が冷えていくような気がした。
「ロック。落ち着けーっていうのも無理な話かもしれないけど、とりあえずエリィをよーく見てみるですな!」
そんなわたしの肩に手を置いて、リピートはわたしとロックを引き合わせる。ロックは席から立ち上がって、わたしの前に立った。
「え……? よく見て……って……!!」
ロックはわたしをじっと見つめると、さっきまでみたいな慌てた様子から急に変わった。目を見開いたかと思ったら、みるみるうちに顔が真っ赤に染まって……また落ち着かない様子になって。とにかく、その変化は目まぐるしかった。
「……え、エリィ。その髪……」
「……リピートに、結んでもらったの」
「そ、そうなんだ」
……今みたいな時も、ロックは本当に言いたいことを言えてないのかな……。わたしは知らない内に俯いて、床を見つめていた。
「あ……」
きまずい……っていうのかな。みんなしゃべらなくなっちゃった。
「……う……」
ロックの唸り声が聞こえる。わたし、また困らせちゃったのかな……。
「……エリィ! その……違うんだよ」
ごめんねって、そう言おうとした時。ロックはいきなり大声を出して。わたしは思わず顔を上げて、ロックを見つめた。
ロックは顔を真っ赤にしたまま、でも真剣な目でわたしを見て。
「僕がエリィに言いたくても言えない事っていうのは、エリィに対しての不満とか、そういうのじゃないんだ。寧ろその……言ったら、エリィが喜んでくれるかもしれないような事で」
「え……?」
それってつまり……どういうこと?
「それを僕が言えないのは……ただ単に、恥ずかしいとか……そんな下らない理由なんだ。だから、エリィが気にしたりする必要なんか無いんだよ!」
「……」
ロックの言葉のひとつひとつが、わたしの心に染み渡って。じんわり広がっていく温かいものはきっと、『安心感』なんだと思う。
良かった……わたし、ロックに迷惑を掛けていたわけじゃなかったんだ。
――あれ? でも、『口にするのが恥ずかしいこと』って、なんなんだろう。
「……うっ」
わたしの疑問を、視線で察したのかな。ロックは潰れたような変な声を出した。
「ほらほら、今がチャンスだろ。気持ちは言わなきゃ伝わらないだろー?」
「うっ……うん。そう、だよね。言わなきゃ伝わらない……よね」
シングに頷いて、ロックはもう一度わたしをまっすぐに見つめた。手をぎゅっと握り締めて、振り絞るみたいな声色で、
「かっ……可愛い……よ。い、いつもそう思ってるけど! 今日はその、いつもとは違って……新鮮な感じがする。
……す、凄く似合ってるよ!」
「……!!」
――嬉しい、って。わたしは、そう心から思った。
でも、驚きとかどきどきとか、色んな気持ちが混ざって。わたしがそれに応えられたのは、たった一言だけだった。
「――……ありがとう、ロック」
髪の結び方、覚えよう。
そうして、わたしの色んな姿をロックに見てもらいたいな。
End.
(→次ページはあとがきです)
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