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短編/外伝集
新しい風を

「……オレ達には、あいつがアリアを嫌う理由は解らない。まぁオレも好かれてはいないだろうけど、ロックは」
「話を脱線させるのはやめなさい。故意かそうでないかは知らないけれど」
ぴしゃりと指摘してやればシングはまたいつものように笑みを零し、今度はまるで世間話の続きのように軽い調子で言い放った。

「あいつの気持ちなんて到底解りっこねえよ。オレ達はあいつじゃない。あいつの気持ちはあいつ自身にしか解らないだろ。
でもさ……解ろうと努力する事は出来るんじゃないか、って思うんだ」
「彼にとってはいい迷惑ね。きっと」
「…それ言われるとキツいんだけどさ」
アリアの言葉を正論と受け取ったように頭を掻くシングだが、しかし意見を曲げるつもりはないようで、真剣な眼差しでアリアを見据えた。

「さっき『やり合い』つったのは、アリアの気持ちを知らないあいつと、あいつの気持ちを知らないアリアの立場は同じだって言いたかったんだ。お前らは同じ立場で、お互いを貶めて『やり合ってる』んじゃねぇかなって。
ま、オレの主観だけどさ」

「! ……」

初めて聞いた第三者の意見に、僅かにアリアの意思は揺らぐ。
――自分と、彼が、同じ立場?
恐らくこの言葉を他の人間に言われても鼻で笑っただろうが、相手はアリアにとってそれこそ理解し難い思考回路を持つシングで。
アリアは暫し戸惑い、彼の言葉をそのまま受け入れてしまいそうになる。
(……)
しかし、努めて冷静に考えてみれば…セイルに対しての認識は改めるまでには至らなかった。
どうしても、セイルに関しては自分が被害者という認識が強いからだろうか。彼が自分に今まで幾度も向けてきた、敵意に満ちた目。
それを思い出してしまえば、シングの言葉に揺らいだ感情など何処かに落としてしまっていた。

アリアの無言に、シングは彼女の意思を今回は確実に正しい方向へ受け取ったようだ。
肩を竦め、「……まあ。気が向いたら、また考えてくれよな」と少々沈んだ声で言った。

それで用は済んだだろうに、シングはまさかここに長居するつもりなのかそのままカーペットが敷かれた床に寝転がった。
「……」
無言で睨みつけるアリアを気にした様子もなく、曲げた腕を枕にしたシングは、いつの間にか淀んでしまった空気を吹き飛ばすように馬鹿でかい声を上げた。

「あーあ! この空気を新鮮にしてくれるような新しい風が吹かねーかなぁっ!」






End.



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