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短編/外伝集
身勝手な男

「アリアが答えた『一人』。まぁ言う通り、問題児な。…あいつについて、どう思う?」
「……どう思う、って……」
アリアが問題児としたのはとある少年。しかし少年といっても、ギルドマスターの息子ではないもう一人だ。
そう言ってしまえば、チームメイトの中で残されているのはあと一人しかいない。


――セイル・リキトス。

「……どうして私に聞くのかしら」
「ロックには聞かなくても自分から言ってくれるしな」
何て事はない、言われてみればその通りだ。
このシングは、自分が尊敬するギルドマスターの息子と何故だか仲が良い。わざわざ出向いて話を聞こうとせずとも向こうから話して来る事もよくあるだろう。

アリアはセイルという男に関して詳しくはない。
理由は二つ。こちらが彼にさして興味がない事と、彼の方がこちらを拒絶しているからだ。
仕事の際は無言を保つ事で抑えているようだが、シングが無理矢理チーム四人を集めて食事を取る時などは…とかく苛立っている様子だ。
彼を視界に入れないようにしていても、身に纏う気が歪みに歪んでいるせいでそれが解ってしまうぐらいだった。
向こうに突っかかれた事も多々あるが、それは特にアリアにとっては気にするものではない。
…そう思っているのが伝わるのか、一方的な喧嘩の後はそれまでよりも深い嫌悪感を向けられる。するとまた些細なきっかけであちらに突っかかれ…その繰り返しだ。

「……『チームリーダーとしての仕事』、というわけ?」
「ん、まあそれもあるけど。ロックはお前達のやり合いに脅えてるし、オレ個人としてもいずれは何とかしなくちゃな〜って思ってたからな」
シングの言葉の中に気に入らない単語を耳にしたアリアは、一瞬だけ目を細め。
「『やり取り』ならばまだ理解出来るけれど、『やり合い』とはどういう意味かしら?」
細かいかもしれないが、アリアにとっては重要だ。
何せこちらは被害者なのだ。セイルに対して自分は特に何かしたわけではない。初めて出会った時から既に嫌われていたのだから。

…だというのに『やり合い』とは。
セイルの言い分は一方的だ。シングと似ている気もするが、方向性が全く違う。
憎悪と言っていいほどの一方的嫌悪を向けられるくらいなら、まだ少なくとも表面的には友好的なシングの方が些かマシである。

つまり、アリアにとってセイルは『身勝手な男』。
勝手な嫌悪を向け、勝手な罵倒を吐く。そんな相手と『やり合っている』などと言われるのは、いくら人との関わりに無頓着な面があるアリアでも心外なのだ。

「……あんま人付き合いに口出したくはないんだけどさ」
シングは珍しく笑みを陰らせ、言葉を濁らせた。



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あきゅろす。
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