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短編/外伝集
突拍子のない問い


「さて、ここでクイズです。『オレ達のチームの中で、問題児は何人いるでしょうか?』」
「は?」
後方から聞こえてきた突拍子の無いチームリーダーの発言に、壁際の机に向かっていたアリアは思わず声を上げた。
そして読んでいた魔術書から目を離し、訝しげにシングを振り返る。
…今貴方が肘ついてるテーブル、同室のあの子のなんだけど。
指摘しようかと思ったが、それを言った所でこの男は軽く笑うだけで流すだろう。アリアは無益な事を言って舌を乾かす気にはなれず、彼女もまたその事実を流した。

さて、この突拍子のない気紛れなチームリーダーは、この部屋に五分程前にやはり唐突にやってきた。
チームリーダーとしては信頼に値するが、人間としては大分だらしがないこの男。部屋に一人でいたアリアを訪ねてきたかと思えば、彼女の同室の少女の私物である小さな丸テーブルに肘をつき、わざわざアリアに聞かせるような事でもない話を延々喋っていた。
アリアが聞いているかいないかお構いなしに、そんなの親友に話せばいいだろうという話を、延々とだ。
最初は無視していたアリアだが、いい加減うんざりして『話があるならさっさと言え』と口に出してみれば。

「世間話でもしてお前をリラックスさせようと思ったんだけどなあ」
私は貴方が部屋にいなければそれでリラックスしている。
そんな本音を言えば、この言うこと言うこと冗談なのか本気なのか解らない男に、話が脱線させられると瞬時に判断したアリアは、言いかけた言葉を飲み込んだ。
そうして無言でシングを見つめ、早く話せと促した。
アリアのその意思は果たして正しく通じたのか否か、シングはやはり冗談とも本気とも取れる笑顔を浮かべたまま、あの問いを投げてきたのだ。

予想だにしていなかった、意図の不可解な問い。
「……どういう事」
尋ねても、「簡単なクイズだよ。答えは?」とだけで。
「……」
答えぬ限り思惑は話さない、という事だろう。
そう判断したアリアは、僅かな黙考の後、答えを返した。

「一人ね」
「…ん。まぁそうなるよな」
煮え切らない出題者の言葉にアリアは目を細める。
「何が言いたいの」
「いや、アリアの答えは正しいよなー、って?」
ハッキリしない言動に、人知れず苛立つ。

…この男はこういう奴だ。
普段はヘラヘラと笑ってばかり。だらしがない面が主に表出しているのだが、時に煮え切らない態度を取って、不可解な言葉を投げかけて他人を翻弄するのがこの男。
ギルドマスターに憧憬を抱いているからかチームの仕事は至極まともにこなす。が、男自身の人格には疑念を抱いてばかりだ。
それがアリアにとってのシングで、信頼こそすれあのギルドマスターの息子のように『友人』とは到底思えない相手であった。

「そう怖い顔で睨むなよ」
いつも調子を笑うシングは、しかしその直後身に纏う空気が変わった気がした。
それは魔術師としての『気』だろうか。いや、違う、と思う。
アリアは無意識に身構えながら次のシングの言葉を待った。



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