短編/外伝集
少女はひとり、たたかいます。
――その、結果。
「ほらっ、エル! こっちを向いて! さっき教えた言葉を言ってみなさい!」
「むっむむむむりですぅーっ! もうやめてくださいぃい!」
ベリルさん達に見覚えのある服…ううん、メイド服姿を披露するはめになったぼくは、カヤナさんのさらなる攻撃から何とか身を守ろうと逃げ回ったあげく、タイガさんの背中を盾にして部屋のはじっこに隠れるように座り込んだ。
ううっ、すみませんタイガさん…! 今、ぼくは恩を仇で返してますっ!
「か、カヤナっ、もう止めとけ! このままじゃトラウマものだ!」
「エルっ、せめてもう一枚写真を取らせて! ついでに『ご主人様』って言って!」
「むりですってばーっ!」
タイガさんの脇の下から手を伸ばして、ぼくを引っぱり出そうとしているのは…もちろんカヤナさんだ。
うわあぁんっ、なんでこうなるのー!
「ねえカヤナ、どうせ言って貰うならこの魔道具に録音しましょうよ。そうすればいつでも聞けるわよ」
! ?
「そうね。それなら、せっかくだし魔道具の起動音声にしたらどうかしら。どう、ベリル。出来そう?」
「ええ、魔道具の造形的になんの問題もないわ。…うふふ、楽しみね」
「うふふ、そうね」
「うふふ」
「うふふ」
ひっ…ひぃい…! こわい…ベリルさんもカヤナさんもすごくこわい…っ!
こ、このままじゃ…!
「エル!」
身の危険すら感じるぼくに届く声は、意外にもロウラのものだった。
「ロウラ…!」
…もしかして、助けてくれる!?
ぼくは少なからず期待して、ロウラを希望に満ちた目で見た。
……、『ぼく むり がんば』……。
うっううう……!
友達って…こんな無力なの…っ!?
唯一の友達のあまりにあまりなジェスチャーに、ぼくは地に突っ伏したくなった。
「エル」
「エル」
……っ!!
盾にしていたタイガさんの身体が、西ギルドマスターだったタイガさんの身体が、なぜかそれより全然力がないはずのベリルさんやカヤナさんによってたやすくどけられる。
そうして、逃げ場をなくしたぼくの目の前に立つふたりの顔は……。
「うっ…うわぁあああぁああぁああ!!!」
――申し訳ありませんが ぼくももう 語れそうに ありません
ジェスチャーもできなかったので 心から念を 送ることしか できませんでした。
とりあえず ぼくはおもいました
…なにかに夢中になった 女の人は
すごく こわいです。
End.
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