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短編/外伝集
傍観者は二名


――それから二時間後。



「チッ。何で俺がガキの女装なんざ見なきゃいけねぇんだ」
「アッシュ、女装じゃなくてきちんとした正装よ! エルは女の子なんだから!」
「いやあ、楽しみだね」


あああ何でこんな時に限ってリーブさんまでここに――…!!

ぼくはカーテンで仕切られた向こうから聞こえる声に泣きたくなった。というか、カヤナさん…アッシュさんほんとに嫌がってるので帰ってもらいましょう…? ぼく、怖いですよぉ…。


「エル、大丈夫? ひとりで着替えられる?」
「あッ、はい、大丈夫れすっ」

噛んだ。慌てるあまり噛んじゃった…。声も変に上擦ってたし、恥ずかしい…。
ベリルさんはそんなぼくにくすくすと笑いつつ、「じゃあ、着替え終わったら言ってね。楽しみにしてるわ」と言い残してカーテンの向こうへ消えた。


うう…もう、やるしかない…よね…。
たくさんの服を抱えて帰ってきたカヤナさんの顔はらんらんと輝いていたし(一緒にいたシディさんやタイガさんの顔が少し疲れていたようだったけど)、ベリルさんも楽しみにしてると言ってくれたんだから。


ぼくはカヤナさんから渡されていた一着目の服を手に取る。……黒基調で、白のエプロンが一緒についてて…あれ?

この服…なにかの本で見たことあるような……。


「エルー、まだーっ?」
「はひぃっ! もうすぐですっ!」

また。またやらかした。…カーテンの向こうからベリルさん達の笑い声が聞こえる。
ぼくはびっくりして思わず落としてしまった服を拾い上げて、それをじいっとにらみつける。


…う、ううう…どう見ても着る服に違和感がある…。でももう、着るしか…ない…っ。


ぼくはベリルさんの笑顔を思い出す。そして、ぼくがこの服を着ることで喜んでくれるベリルさんを想像した。


『あら、可愛いわね。よく似合ってるわよ』

…ベリルさんは優しいから、きっとこんな感じのことをぼくに言ってくれると思う。うん、きっとそうだ。

ぼくはベリルさんに喜んでもらうために、この服を着るんだ――…!


…そう思ってないとやってられない!



覚悟をようやく決めて、ぼくは見覚えのある服に袖を通し始めた――…。





「もういいのね?」
「はっ、はい…!」
「じゃあようやく御披露目ね」
「チッ。さっさと終わらせやがれ」

ひいい…さんざん待たせたせいか、アッシュさんがさっきより不機嫌になってる…。ぼくは微かに震えた。

「大丈夫よ、エル。ほら、こっちに来てみて」

ベリルさんの声。そのいつも通りの声に勇気づけられて、ぼくは戦場へと足を踏み入れた――…。




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