短編/外伝集
発端は彼女から
「エルって、女の子よね?」
とある日の昼下がり。ぼくの顔をずいっと覗きこんで、急にそう言い出したのはカヤナさんだった。
「は、はい…そうです…けど…」
「カヤナ、急にどうしたの?」
ベリルさんも突然のカヤナさんの言葉に驚いてるみたいだ。周りのロウラやタイガさん達も驚いた様子でぼく達を見守っている。
「そう…ちゃんと自覚はあるのね…」
「なに、カヤナ。まさか今の今まで、エルの事を男の子だとでも思ってたの?」
席に――ぼくのちょうど正面だ――に座り直して、何だか小さな声で呟くカヤナさん。そんなカヤナさんに、窓枠に腰掛けていたシディさんが声をかけた。
カヤナさんはシディさんに「違うわよ」と否定して、今度は席に着いたまま、まっすぐにぼくを見つめた。
「…あ、あの…」
…しばらくの間じいっと見られて、何だか恥ずかしい…。本当にどうしたんだろう、カヤナさん…。
「カヤナ。何かあるならさっさと言ってやれ。エルが恥ずかしがってるぞ」
「…そうね」
タイガさんが助けてくれて、ぼくは密かにほっとした。カヤナさんはうんっと頷くと、ぼくに向かって告げた。
ぼそりと、さっきよりも小さな声で。でもなぜか、いやに耳に残る感じだった。
「――…女の子成分が足りないわ」
「……え?」
ぼくと同じ反応をした人は、ベリルさん、シディさん、タイガさん、ロウラ。つまりこの場にいた全員だった(アッシュさんは昼食を終えたらすぐに自分の部屋に帰っていたんだ)。
まだ呆然としているぼくをよそに、ベリルさん達は一斉に心配そうな目をカヤナさんに向ける。
「あの、カヤナ? それってどういう…?」
「カヤおねえちゃん、女の子成分ってなに?」
「カヤナ、どうした…何かあったのか? 思いつめていないで相談した方がいいぞ」
「いくらリーブ様に会えないからってそっち方面に行くなんて意外だなぁ。しかも幼女狙い」
「ちょっと、何よそれ! 変な誤解はしないでちょうだいっ!」
よーじょ、ねら…? シディさんの言っていることはよく分からなかったけれど、どうやらカヤナさんとしては嫌な言葉だったみたい。
カヤナさんは一度シディさんを睨みつけてから、こほんと咳払いしてからぼくを見据えて。
「エル。確かに貴方は今、響界から身を隠さなければいけない立場にあるわ。その為に男の子の格好をしていた方がバレ辛いという理由も重々承知している。
…でもね、だからこそ私は言うわ」
静かに言い聞かせるようなカヤナさんの口調。ぼくは自然と息を飲んで、次の言葉を待っていた…――のだけれど。
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