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短編/外伝集
月桂樹の下で


「あ、ありがとうございますっ、明日葉さん!」
「いや。君の健闘を祈るよ」

もう一度、ありがとうございます、と頭を下げて。
イメリアは最初ここに来た時と同じスピードで走り去っていった。




「…先輩」
「ん、後輩君。おはよう」

イメリアがいなくなってから、明日葉の隣の教室からひとりの男子生徒が現れた。男子生徒はネクタイの色で学年を判別するが、男子生徒のそれは二学年を表す緑色だ。

「何で隠れていたんだい? 彼女は同学年ではないか」
「…うたた寝から冷めたら、あまり関わりのないクラスメイトの恋愛話が始まってしまっていたので。出るに出れなかったんですよ」
咎めるように目を細める男子生徒に悪びれた様子もなく、明日葉は「まあまあ。いいではないか」と笑う。

「悩める子羊ならぬ悩めるヒロインに手を差し伸べるのは、主人公の役目だろう」
「…はあ。まぁ、言ってる内容はともかく後輩の悩みに乗るのは別にいいんですけど」
「だったら問題ないだろう?」

男子生徒はもう一度、はあ、と溜め息を吐き。

「さっきの話、なんだったんですか?」
「さっきの話…ああ」
「それに、織姫と彦星の話。先輩も知っているでしょう? あれはお互い恋心にかまけて仕事が手に付かなくなり、その所為で引き裂かれたんです」
「うむ。勿論知っているぞ」
「だったら…」
「別にいーではないか。彼女に勇気を出させる為だ、多少の事実を隠すぐらい些細な問題だよ」


「…嘘はいいんですか、嘘は」


男子生徒…櫂斗は密かに、イメリアに同情した。





――来る、七月七日。

七夕である。


イメリアは朝早くに学園にやってきて、手早く鞄の中からピンクの紙を取り出す。色画用紙を切ってつくられた短冊だ。
そこには、既に願い事が書いてある。

「……よしっ」

イメリアは自分を勇気付けるように声を出して、短冊を笹に飾る。…この期に及んで、なるべく人の目につかないような位置に付ける自分が微妙に情けなくなるが、短冊を飾る勇気が湧いたとて、それを他人に見られてもいいという訳ではないから。だからこれは問題ない…はず。

ロックには昨日の夜に、既にメールを送っておいた。

『七夕の日、校舎裏の月桂樹の下で、待ってます』と。


明日葉から聞いた話。それは、この白昼学園に伝わる月桂樹の噂である。

この学園の校舎裏に唯一立っている月桂樹。これは普通の月桂樹よりも高く伸びている。

白昼学園の創設者は七夕の日、この月桂樹の下で告白してその恋を実らせたという。ちなみに創設者は女性だ。

明日葉はこの話をイメリアにして、「どうだ、告白する勇気は湧いたか?」と言ってくれた。




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あきゅろす。
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