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短編/外伝集
先輩に相談


「あ、あれ……?」

イメリアは、ふと周囲を見回す。登校時間だというのに人気がない。

「このような辺境の地まで人が来るとは珍しいな。しかもポニテヒロインではないか!」
「ふぇっ!?」
突然背後からがっしり両肩を掴まれ、イメリアは思わず悲鳴を上げた。
振り返って見れば、そこには黒髪の女生徒がにんまりと笑って立っていた。よく見れば廊下で見たことがある。クラスメイトの櫂斗とよく話しているのを見たことがあった。

「おっとすまない。ついつい興奮して紳士的な態度を忘れてしまった」
「は、はあ…」
イメリアの肩から手を離し、女生徒は先程とは違い人好きな笑顔を浮かべ。

「私は明日葉。君は?」
「い、イメリア、です」
「ふむ、いい名だ」
「あ、ありがとう…ございます…」

芝居がかったような口調で喋る明日葉に、イメリアはぺこりと頭を下げた。

「畏まらなくていいのだよ、イメリア君。私は可愛い子と女性キャラには無条件で紳士になると決めているのだからな」
「??」
「ああ、悪い。これではまた後輩君にお小言を貰ってしまうな……君、朝っぱらからどうしてこんな所に? どうやら随分と激しい運動をしていたようだが」
「…!!」

明日葉に問われ、否応無しにイメリアは先程の事を思い出してしまう。ロックとのやり取りも、もちろん妄想上のやり取りも。

「ん? …ほう、これはこれは。何やら恋愛イベントの匂いがするな」
ぼそりと呟き、明日葉は顔を赤くしているイメリアの右肩に手を置く。今度は先程とは違い、優しくそうっと。

「どうだ、悩みがあるなら先輩に相談してみるといい。人に話すだけでも楽になるぞ」

女生徒は制服のリボンの色で学年を判別出来る。イメリアは二年生を表す緑、明日葉は三年生を表す赤色だ。

イメリアは顔を上げる。快活でさっぱりとした雰囲気を持つ明日葉の姿は、うじうじしがちな自分とは随分と遠くて、正直眩しい位だ。

初めて面と向かって話す自分に対して、優しい言葉を掛けてくれる彼女に「ありがとう…ございます」と礼を言ってから、イメリアはぽつぽつと話し始める。
幸い、ここにはまるで人気が無いから。


「す、好きな人が、いるんです」
「ふむ」
「でっ、でも、その人は…私なんかでは手の届かない人で」
「…なるほど」
「何度も諦めようと思いました。けど…」
「諦めようと思ってすぐに諦められるものではないだろうな、恋心というものは。自分の想いに嘘はつけないだろう」
「…はい」

自分の気持ちを察してくれた明日葉に頷く。そのはっきりとした物言いは酷く安心出来た。

「それで、…その…もうすぐで、七夕、じゃないですか…」
「ああ、そうだな」
「『好きな人に、自分を想って欲しい』…なんて願うつもりはないんです。そんなのずるいですから…でも…」

無言で顔を見合わせ、明日葉は先を促す。

「でも…もし叶うなら。『好きな人に告白する勇気が持てますように』って願いたいと、思っているんです」
「…ふむ。いいのではないか? 聞いた限りでは特に問題は感じられないが……それに」
「?」

「織姫と彦星は両想いながら引き裂かれ、一年に一度…七夕にしか出会えない。一年に一度の逢瀬…それはまるで身分違いの恋のようだ。君はどうやら相手の男性に何か隔たりを感じているようだが、告白の勇気を願う程度なら織姫と彦星も応援してくれるだろう」

「…そ、そうでしょうか」
「ああ。自信を持つといい。今はどこの誰に恋心を抱こうが自由なご時世だよ。気にする事はないさ」
「……」

穏やかな口調で話す明日葉に、イメリアは未だ自信が持てない。が、彼女の話は不思議と納得してしまうような響きがあった。

「…そう…ですね。願うぐらいなら…自由…ですよね…」
「ふむ。それで実際に告白出来たら最高なのだが」
「う…」

と、明日葉は何かを思い出したように「そうだ。君にとっていい話がある」と切り出して来る。

(…何だろう?)

明日葉は心なしか、いたずらを思い付いた子供めいた表情に変わっていた。が、イメリアは彼女をすっかり信用していたので、特に不審には思わず。
首を傾げた。




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