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短編/外伝集
短冊にかける願い



白昼学園二年生のイメリアは、登校早々大きな笹を発見した。
廊下の壁に上手く寄りかかるようにして立てられたそれに妙な人だかりが出来ている。

(あ、七夕…もうすぐだもんね)

今日は一日だから、あと六日後か。人だかりに近付いてみると、どうやら人々は笹の近くの机に置いてある短冊を手にしているのが解った。

(七夕…短冊に、お願いごと……)

イメリアは、自分なら何をお願いしたいかを考えてみる。
「……!!」
耳まで熱くなったのが、自分でもわかる。

…願いたいこと。
思い当たるのは、仄かに想いを寄せる男性への願い。去年、実際に短冊にその願いを書こうと思ったけれど。やはり気恥ずかしさと、万が一本人に見られたらという考えが浮かんで止めてしまったのであった。

(私の願いごとは…)

イメリアは考える。自分の願いがもし叶ったら……。




『あ、あのっ、ロックさん…!』
『ん? なに、イメリア?』

合わせた手をぎゅっと握り締めて、イメリアは顔を上げる。

『わ、わわ…わたしっ! 私、ロックさんのこと…!!』
『……、うん。わかってたよ』
『え?!』

ロックは柔和な笑みを浮かべ、イメリアの頭を撫でる。

『僕も、同じ気持ちだよ。…イメリア』
『!! …ぁ、う、ロック、さん…』

顔を真っ赤にしたイメリアを愛おしそうに撫でながら、ロックは告げる。


『ロック『さん』なんて、君には呼んで欲しくないな。…だって君は…』


『…僕にとって、大切な人なんだから…』





「あ。イメリア、おはよう」
「きゃあああああっ!?」
「え、えぇっ?!」

たった今まで妄想の渦中にいた本人に話しかけられ、イメリアは思わず悲鳴を上げた。周囲の人間が皆振り向く。

「ご、ごめ、ごめんなさい〜!! ロックさんはロックさんです調子乗りましたごめんなさいぃーっ!!!」
「ええ!? どういう意味…って、イメリア!?」

廊下は走っちゃ駄目だよ〜などと、調子の外れたロックの声など当然イメリアには届かず。

イメリアは全速力でその場から逃げて行った――…。


「ロック、どうしたんだー?」
「あ、うん。イメリアが廊下走って行っちゃって…」
「イメリアが? めずらしいね」
「そうだよね…どうしたんだろ…?」

短冊を取りに行ったシングと、笹を物珍しそうに見ていたエリィが戻って来た。ロックは二人に話しながら、イメリアの不可解な言動にただただ首を傾げる。




「はぁっ、はあ…!!」

イメリアは息を切らしながら、ようやく立ち止まる。元々体力のない方なので、立ち止まった途端にかなり疲労が溜まった。


(だ、だ、だめっ)

(そんな願い事は無理、ぜったいむり!!)

『ロックさんに告白できますように』だなんて。

それどころか酷い発展形の妄想を繰り広げてしまった。
…あんなタイミングで本人と会ってしまったのは、きっと神様が自分を叱っているのだ!




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あきゅろす。
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