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短編/外伝集
それぞれが、祭へと


「全く…お前の優柔不断に付き合わされるこっちの身にもなれっ」
カリカリした様子で、セイルは小さなテーブルを挟んで向かい側のロックを睨みつけた。ロックはその強い視線に小さくなる。
「ご、ごめん…本当に、ごめんセイル…でも…僕、女の子に贈るものとかって解らなくて……」
俯くロックの手には、掌より少し大きいぐらいの箱が握られていた。まだ包装していないそれは、そのまま渡せば簡素というレベルではない。人によっては適当と言われてしまうだろう。

「…そもそも、それを何故俺に聞いたんだ」
アリアやリピートやイメリア…協力してくれるだろう女性はいるだろうに。
セイルが問うと、しかしロックは何を言っているんだと言いたげな、呆けたような表情を見せる。
「え、だってセイルはリピートに毎年色々プレゼントあげてるで」
でしょう、と言い終わる前に、テーブルが勢い良く叩かれる。
セイルが突然大きな音を立てるものだから、ロックは非常に驚き怯える。
「ひっ、な、なんで? だって事実でしょっ?」
「事実なものかっ! 俺はあいつがいちいちうるさいから仕方なく…! くそっ、さっさとそれを包装しろ!」
「は、はいぃ!」
凄い剣幕で言われれば、ロックは従わざるを得ない。プレゼントとともに購入していた包装紙を広げ、それで箱を包もうとする。
が。

「あ、え…っと、あれ?」
「……」
「どこをどうすれば……ね、ねぇセイル」
「知るか」
ふんと鼻を鳴らし、無関心を決め込んでしまったセイルだったが、まごまごしているロックに段々と苛立ちが増して来たらしく、やがて「お前はどこまで不器用なんだ!」と声を荒らげつつも、彼の代わりにプレゼントを慣れた手つきで包装していく。
ロックはセイルの手の動きを見つめ、思わず感嘆の声を漏らした。

「ありがとう、セイル…すごい慣れてるね」
「昔から弟達に渡してたからな」
そういえば、彼は弟妹が多い家の長男だった。ロックは以前シングと二人で彼の家にお邪魔した事があるが、彼の家族は皆優しかった。彼の母親も弟妹達も。
こういった事に慣れているのや、何だかんだでロックに世話を焼くのも、彼が兄という立場だからだろうか。

「あ、そういえば」
ふとロックはある疑問を抱き、それを聞いたらセイルがまた怒るだろう可能性を忘れたままに問いかける。

「セイル、リピートに何プレゼントするの?」




特別な祭。
ギルドだけではなく、町中も色とりどりの光に包まれる中、白い妖精が空から舞い降りていく。

どこかで鐘の音が鳴り響いた。アリアはそれを、まるで人々を祝福しているように感じた。
(…何故かしら)
この独特な、世界中が浮かれているような雰囲気や、舞い散る雪がそう思わせるのだろうか。

まあ、嫌いではない。

アリアは窓から外を眺めるのを止め、仲間達が待つ大広間へ向かう。


自分らしくないのは分かっているけれど。
どことなく軽い足取りは、自分も彼等と過ごす時間を楽しみにしているのだろうと、アリアは冷静かつ温かな心でそう分析した。




END.




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