[携帯モード] [URL送信]

短編/外伝集
特別な祭


エリィはここ数日前から、妙な違和感のようなものを覚えていた。
なんだろう、ギルド内がそわそわしているというか。

…いや、もっと分かりやすい『もの』があった。

「……」
大広間に鎮座する『それ』を、エリィは見上げる。ざわざわと集まる人々から距離を取っていたが、それでもその天井に届かんばかりに聳え立つものは圧倒的な存在感を放っている。

(なんだろ…これ)

梯子やらを使い、人々はその大きな『木』にエレメントロックを飾り付けたり、紙を束ねてつくられた簡素なレースのようなものを木にまとわりつかせるように引っ掛けたりしている。

「お、エリィじゃん!」
聞き覚えのある声が聴こえてたと思えば、ちょうどエリィからは見えなかった木の背面からシングがひょっこり顔を出す。
燃え盛る炎のような赤い髪と瞳を持つシングはエリィに右手を軽く振る。左手には紐を括り付けたエレメントロックを持っているが、やはりこの木に飾るのだろうか。
「エリィですなー!? エリィーっ!」
と、シングと共に作業していたらしいリピートも、シングと反対側から顔を出す。
エリィは二人に手をそっと振り返す。すると、どたどたと騒がしい音を立てて、リピートがこちらへやってきた。

「エリィ、おはよーですな!」
「おはよう」
いつも通り元気一杯のリピートに挨拶を返すエリィは、きょろきょろと辺りを見回して。
「リピート…、これ…なに?」
これ、とはこの目の前に立つ木だけではなく、やけに浮き足立った人々が集まっているこの状況自体を指している。
エリィの問いに、リピートは楽しそうに笑って。
「今日、十二月の二十四日と明日の二十五日は、特別な日なんですな」
リピートの答えは肝心な所が見えてこない。さすがにエリィにも、何か普通の日とは違うものがあるんだろうというのは分かっている。
「どう、とくべつなの?」
詳しい説明を求めると、リピートは今まで以上に瞳を輝かせた。

「みんなでおいしいものを食べたりはしゃいだり、子供はプレゼントを貰えるお祭りなんですな!」
「おまつり…そうなんだ」
しかも、何やらとってもいいお祭りらしい。なぜ子供はプレゼントを貰えるんだろうとも考えたが、その時エリィは数日前、ロックに何か欲しいものは無いかと聞かれたのを思い出す。
(とくに思いつかない、って言ったけど…)
もしかしてもしかすると、自分はロックを困らせてしまったかもしれない。

「そいえば、ロックと一緒じゃないなんて珍しいですな?」
「あ、うん…ロック、朝から出かけてて」
言ってすぐ、先程の予感がもしや的中したかもしれないと思い始める。
そんなエリィの考えはいざ知らず、リピートは非難するような声を上げた。

「ロックもですな!? セイルも朝からいなかったんですな!」
リピートのその言葉に、エリィはもしやと予想する。

「ロック、セイルといっしょ…?」




[次へ#]

1/3ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!